専業主婦を対象とした「第3号被保険者制度」の廃止が見送られることが発表されました。
ところで、見送りを報道するニュースでは『「第3号被保険者制度」の廃止が見送り』を『専業主婦優遇「3号」廃止見送り』と言い替えています。この記事では、併記でいきます。
さて、この制度は、専業主婦や一定の条件を満たすパート労働者が年金保険料を支払わずに基礎年金を受け取れる仕組みとして知られています。
しかし、共働き世帯の増加や「年収の壁」問題などを背景に、廃止や見直しの議論が続いています。
この記事では、この制度の概要、廃止が議論される理由、廃止見送りの背景、そして今後の方向性について、コンパクトまとめました。コンパクト第一なので、できる限りリスト形式で表記します。
なお、筆者 taoは、社会保険労務士ではありませんし、また同等の知識を持つ専門家でもありません。ただし、年金制度については従前から興味を持っていろいろ調べてきました。
以下のコンパクトまとめは、その延長で書きました。間違い部分があればご指摘いただくと助かります。
- そもそもの専業主婦優遇「3号」の制度について
- 専業主婦優遇「3号」を廃止する意味と背景について
- 専業主婦優遇「3号」が廃止された場合の専業主婦のメリット・デメリットについて
専業主婦優遇「3号」とは?
正しくは「第3号被保険者制度」。これは、1985年の年金制度改正時に導入されました。この制度は、会社員や公務員(第2号被保険者)に扶養されている配偶者が対象で、配偶者の年収が一定未満であれば年金保険料を支払わずに基礎年金を受け取ることができます]。つまり、年金保険料を支払うこと無く、専業主婦が自分名義の年金権を確保できるという制度です。
少し詳しく話を進めます。
公的年金制度の加入者には三つの区分があります。
- 「第1号被保険者」
- 自営業者やフリーランスなど国民年金の保険料を自ら納める人
- 「第2号被保険者」
- 会社員や公務員など労使折半で厚生年金保険料を支払う人
- 「第3号被保険者」←★これが専業主婦優遇「3号」
- 「2号」に該当する夫の扶養になっている専業主婦で、年金保険料は支払わない人
ここで「第3号被保険者」の説明に「専業主婦」と書きましたが、この主婦が働いていてもかまいません。ただし、その年収に制限があります。その制限のある年収以上になってしまうと、扶養から外れ、「第3号被保険者」に該当しなくなります。その金額は…
彼女が勤務する企業の規模が従業員50人以下なら年収130万円未満、51人以上なら同106万円未満であれば、彼女は「専業主婦」として「3号」にとどまることができます。
言い替えると、この彼女が従業員50人以下の企業で年収130万円以上、同51人以上の企業で年収106万円以上働くと夫の扶養から外れ、彼女は企業と折半で「厚生年金保険料を支払う人」となります。
ところで、実際には、従業員51人以上の企業で働く短時間労働者は社会保険に加入しやすくなるという要件緩和が進められているため、より正しく書くと、「従業員51人以上の企業で働く場合、年収106万円未満であれば『第3号被保険者』として扶養内に留まることができます。」と書けと、とある方から指摘されたことを記しておきます。
わかりにくくてごめんね…です。
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1985年に導入されたこの制度の目的は、専業主婦や低収入のパート労働者が年金を受け取れるようにすることで、特に当時の「夫が稼ぎ手、妻が家庭を守る」という家庭モデルを支えるというものでした。しかし、現在では共働き世帯が主流となり、いわゆる「専業主婦」の定義にあてはまる世帯は減少傾向にあります。
専業主婦優遇「3号」廃止の意味と背景は?
専業主婦優遇「3号」、つまり「第3号被保険者制度」が廃止の議論に上がる背景には、以下のような問題点が指摘されています。
不公平感の存在
- 共働き世帯や単身世帯との負担の不均衡
第3号被保険者は保険料を支払わずに基礎年金を受け取れる一方で、その負担は第2号被保険者(会社員や公務員)が肩代わりしています。この仕組みは、共働き世帯や単身世帯から「不公平」との批判を受けています。 - 就労調整の要因
年収130万円未満であれば扶養内に収まるため、多くのパート労働者が「年収の壁」を意識して働き方を調整する傾向があります。これが女性のキャリア形成を阻害し、企業の人手不足にもつながっていると指摘されています。
社会構造の変化
- 共働き世帯の増加
専業主婦世帯が減少し、共働き世帯が主流となる中で、この制度が現代のライフスタイルに合わなくなっているとの声があります。 - 女性の就業促進
女性の社会進出が進む中で、専業主婦を優遇する制度は時代遅れであり、女性の就業を阻害する要因になっているとの批判もあります。
制度の持続可能性
- 財政負担の増加
第3号被保険者の保険料は第2号被保険者全体で負担しており、少子高齢化が進む中でこの仕組みを維持することが難しくなっています。
専業主婦優遇「3号」廃止された場合の専業主婦のメリット・デメリット
仮の話です。つまり、制度が廃止されればそれにともない新たに導入される制度もあるわけで、そういう全体像を見ずに、「仮にこの3号がなくなったら、主婦のメリット・デメリットはどうよ?」というお話です。
いずれにしても、専業主婦優遇「3号」の廃止は、専業主婦やその家族にとってメリットとデメリットの両面があるため、慎重な議論と移行措置が必要とされています。
メリット
- 就労の自由度が増す
「年収130万円の壁」や「106万円の壁」を意識する必要がなくなり、収入を気にせず働けるようになる。 - 女性のキャリア形成が進む可能性
制度廃止により、専業主婦やパート労働者がフルタイムで働く選択肢を取りやすくなり、キャリアアップや収入増加が期待できる。 - 社会的公平性の向上
共働き世帯や単身世帯との不公平感が解消され、社会全体での負担のバランスが改善される。 - 労働力不足の緩和
就労調整をする必要がなくなることで、労働市場に新たな人材が供給され、労働力不足の解消に寄与する可能性がある。
デメリット
- 家計への負担増加
第3号被保険者が廃止されると、専業主婦自身が国民年金保険料(月額約16,980円、年間約20万円)を負担する必要が生じ、家計に大きな影響を与える。 - 専業主婦世帯の生活水準低下
保険料負担が増えることで、特に低所得世帯では生活水準が低下する可能性がある。 - 高齢期の年金受給額の減少リスク
専業主婦が国民年金保険料を支払わない場合、将来の年金受給額が減少する可能性がある。 - 制度移行期の混乱
制度廃止に伴う移行措置や新たな仕組みの導入により、専業主婦やその家族が混乱する可能性がある。 - 女性の負担増加
就労の自由度が増す一方で、働くことを強いられるような社会的圧力が増加し、女性の負担が増える可能性がある。
専業主婦優遇「3号」廃止見送りの背景は?
2023年12月、厚生労働省は「第3号被保険者制度」の廃止を次期年金制度改革案に盛り込まない方針を発表しました。その背景には以下の理由があるようです。
直ちに廃止することの影響
- 制度を廃止すると、専業主婦や低収入のパート労働者が新たに保険料を負担する必要が生じ、家計への影響が大きいと懸念されています。
- 特に、長期間第3号被保険者であった人々にとっては、急な変更が生活に大きな負担を与える可能性があります。
移行措置の必要性
- 制度廃止に向けた移行措置が必要であり、現時点ではその準備が整っていないため、議論を次回以降に持ち越すことが決定されました。
社会保険適用拡大の優先
- 当面は、パート労働者が厚生年金に加入しやすくなるよう、社会保険の適用範囲を拡大することで、第3号被保険者の縮小を目指す方針が取られています。
今後の専業主婦優遇「3号」廃止の方向性は?
廃止の議論は継続されており、以下の方向性が示されています。
社会保険適用拡大
- 2024年10月から、従業員51人以上の企業で働く短時間労働者が社会保険に加入しやすくなるよう要件が緩和されます。これにより、第3号被保険者の対象者が減少する見込みです。
制度の見直し
- 第3号被保険者制度を段階的に縮小し、最終的には廃止する方向で議論が進められています。ただし、具体的な廃止時期は未定です。
多様な働き方への対応
- 女性の就業促進や多様なライフスタイルに対応するため、扶養制度全体の見直しが進められています。
専業主婦優遇「3号」についてのよくあるQ&A
Q1. 第3号被保険者制度が廃止されるとどうなるの?
A. 第3号被保険者は保険料を納める必要が生じます。例えば、年間約19.8万円(2023年度基準)の保険料負担が発生し、家計への影響が懸念されています。
Q2. 制度廃止のメリットは?
A. 共働き世帯や単身世帯との不公平感が解消され、女性の就業促進や企業の人手不足解消につながる可能性があります。
Q3. 制度廃止のデメリットは?
A. 専業主婦や低収入のパート労働者にとっては、保険料負担が増えることで生活が圧迫される可能性があります。
補足情報:103万円、106万円、130万円の壁って何?
専業主婦優遇「3号」の廃止については、国民民主党が主張している「壁の見直し」とともに、総合的に検討して進められていくものと考えます。ここで、わかりにくい年収の壁について補足として描いておきます。
年収103万円の壁
- 概 要: 年収103万円以下であれば、所得税が課税されないラインです。
- 対 象: 主にパートやアルバイトで働く人。
- 仕組み:
- 給与所得控除(55万円)+基礎控除(48万円)=103万円。
- 年収が103万円を超えると、超えた分に対して所得税が課税されます。
- 影 響:
- 配偶者控除が適用され、配偶者(夫など)の所得税負担が軽減されます。
- 年収103万円を超えると、配偶者控除が適用されなくなりますが、年収150万円以下であれば「配偶者特別控除」が適用される場合があります。
年収106万円の壁
- 概 要: 年収106万円を超えると、一定条件下で社会保険(健康保険・厚生年金)への加入義務が発生するラインです。
- 対 象: 従業員51人以上の企業で働くパートやアルバイト。
- 条 件:
- 週20時間以上勤務。
- 勤務期間が1年以上見込まれる。
- 月額収入が8万8千円以上(年収約106万円以上)。
- 影 響:
- 社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)を負担する必要があるため、手取り収入が減少します。
- ただし、社会保険に加入することで、将来の年金受給額が増えたり、傷病手当金や出産手当金を受けられるなどのメリットもあります。
年収130万円の壁
- 概 要: 年収130万円を超えると、配偶者の社会保険の扶養から外れるラインです。
- 対 象: 従業員50人以下の企業で働く人や、106万円の壁に該当しない人。
- 仕組み:
- 年収130万円を超えると、自分で国民健康保険や国民年金に加入する必要があります。
- 影 響:
- 社会保険料の負担が発生し、手取り収入が減少します。
- 配偶者の扶養から外れるため、家計全体の負担が増える可能性があります。
- 一方で、社会保険に加入することで、将来の年金額が増えるなどのメリットがあります。
3つの壁のまとめ
- 103万円の壁: 所得税が課税されるかどうかのライン。
- 106万円の壁: 社会保険への加入義務が発生するライン(従業員51人以上の企業)。
- 130万円の壁: 配偶者の扶養から外れ、自分で社会保険に加入する必要があるライン。
これらの「年収の壁」を意識しながら働き方を調整することが、家計や手取り収入を最大化するために重要です。
まとめ
「第3号被保険者制度」は、専業主婦を支える重要な制度として長年機能してきましたが、社会構造の変化や不公平感の指摘を受け、廃止や見直しの議論が進められています。
今回の廃止見送りは、急激な変更による影響を避けるための措置ですが、今後も制度の縮小や廃止に向けた議論が続く見込みです。
専業主婦や働く女性を取り巻く環境がどのように変化していくのか、引き続き注視する必要があります。
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