ハンバート ハンバートの音楽を真に理解するためには、まず、それを生み出す二人の人間の物語を理解しなければなりません。
彼らの楽曲がなぜこれほどまでに私たちの心を揺さぶるのでしょうか。
この記事は、佐藤良成さんと佐野遊穂さんという夫婦の25年以上にわたるパートナーシップの軌跡を辿り、共有された人生がいかにして楽曲の隅々にまで織り込まれているかを探求する旅です。
なお、ハンバート ハンバートについては、次の記事もどうぞ。


出会いと結成秘話
バンドのコーラス探しから始まった物語…
すべての始まりは、佐藤良成さんが大学時代に組んでいたバンドで女性コーラスを探していたことでした。 運命の歯車が動き出したのは、共通の友人が口にした「遊穂とカラオケに行ったら、めっちゃ歌うまかったよ」という一言です。 この推薦がきっかけとなり、当時、特に本格的な音楽活動をしていたわけではなかった佐野遊穂さんに声がかかりました。
佐野さんがバンドに加入した後、レコード会社の助言もあり、彼女がメインボーカルへと移行していきました。 やがて、他のメンバーが就職などを機に次々と脱退していき、最終的に佐藤さんと佐野さんの二人だけが残ったのです。 偶然と運命が織りなすようにして始まったこの物語こそ、ハンバート ハンバートの原点なのでしょう。
音楽における最高のパートナーシップ
作曲家・佐藤良成と「味見係」佐野遊穂…
夫婦というユニットが、どのようにして創造的な活動を成り立たせているのでしょうか。 そのユニークな創作プロセスは、彼らのアイデンティティの核心であり、衝突を回避する秘訣でもあります。
ハンバート ハンバートにおいて、メインのソングライターは佐藤良成さんです。 彼が音楽の源泉であり、次々と曲を生み出していきます。 一方、佐野遊穂さんの役割は全く異なりますが、極めて重要です。 彼女は楽曲の最初の聴き手であり、直感的な審判者、佐藤さんの言葉を借りれば「味見係」なのです。
佐藤さんは二人の関係をこう語ります。「(遊穂は)〈いいね、よくないね〉って直感的に言うだけ。だからこそ俺も意見を素直に聞ける」。 この「論理的な創造者」である佐藤さんと、「直感的なフィルター」である佐野さんという明確な役割分担こそ、彼らの長年にわたる調和の秘訣です。 役割がはっきりと分かれているため、音楽を巡って本質的に対立することがないと彼ら自身も語っています。
公私を共に歩むということ
3人の子育てと音楽活動の両立…
彼らは単なる音楽パートナーであるだけでなく、三人の子供を育てる親でもあります。 多くのファンが関心を寄せるワークライフバランスについて、彼らは挑戦と恩恵の両側面をインタビューで語っています。
佐野さんは、子供ができたからこそ「土日はライブをやらない」という今の活動スタイルが生まれたと語ります。 一方で、夫婦二人でツアーに出る際には、祖父母に子供を預けなければならない心苦しさもあると佐藤さんは言います。
彼らの哲学の根幹にあるのは、「生活と音楽を切り離して考えていない」という点です。 彼らの人生そのものが作品であり、作品が人生を映し出しています。 この誠実さこそ、ファンが強く共感する理由でしょう。 佐野さんが語るように、公私を常に共にしているからこそ、お互いの状況を察し、「今は喧嘩してる場合じゃないなってことがよくわかる」のです。
ハンバート ハンバートに関するFAQ
夫婦デュオ、ハンバート ハンバートに関する、よくあるQ&Aをまとめました。
Q1. ハンバート ハンバートというユニークなバンド名の由来は何ですか?
A1. ウラジーミル・ナボコフの小説『ロリータ』の主人公の名前「ハンバート・ハンバート」から取られています。大学時代、ロシア文学の授業でこの小説を読んでいた佐藤良成さんが、思いついた中で一番おしゃれだと感じて名付けたそうです。
Q2. ライブやレコーディングでは、それぞれどんな楽器を演奏していますか?
A2. 佐藤良成さんは主にアコースティックギター、フィドル(ヴァイオリン)、マンドリンなどを担当し、作詞作曲も手がけています。佐野遊穂さんはメインボーカルのほか、ハーモニカやティンホイッスルなどを演奏します。
Q3. お二人が音楽的に影響を受けたミュージシャンやジャンルは何ですか?
A3. フォーク、カントリー、アイリッシュ・トラッドといったルーツミュージックに大きな影響を受けています。具体的なミュージシャンとしては、細野晴臣さんや、音楽の先生と呼ぶほど敬愛しているアイルランドのバンド、ザ・チーフタンズなどの名を挙げています。
Q4. お子さんが生まれてから、作る音楽に具体的な変化はありましたか?
A4. 「生活と音楽を切り離して考えていない」と公言しており、お子さんの誕生や子育てといった日々の生活の変化は、ごく自然に音楽のテーマや歌詞に反映されています。家族をテーマにした楽曲が増え、より生活に根ざした視点の歌詞が生まれるようになりました。
Q5. ハンバート ハンバート以外に、ソロでの活動やコラボ共演はありますか?
A5. 佐藤良成さんはソロでの弾き語りライブを行うことがあります。また、デュオとして国内外の様々なミュージシャンと共演しており、テレビCMや映画への楽曲提供も多数行っています。
Q6. ハンバート ハンバートのライブは、どのような雰囲気ですか?
A6. アコースティックな温かいサウンドと、二人の心地よい歌声が特徴です。一方で、曲の合間に行われるMCは「夫婦漫才」のようだと評されるほどユーモラスで、会場は笑いに包まれます。しっとりとした曲から楽しい掛け合いまで、観客を飽きさせない緩急のあるステージが魅力です。
Q7. 海外での活動や、海外のファンからの反響はありますか?
A7. アジアを中心に海外でも公演を行っており、現地の音楽フェスティバルなどにも出演しています。また、海外の伝統音楽のミュージシャンとレコーディングを行うなど、国境を越えた音楽活動を積極的に行っています。
まとめ
彼らの「生活」が、私たちの心を揺さぶる歌になる…
ハンバート ハンバートの音楽がこれほどまでに心を打つ理由は、その根底にある圧倒的な「本物」感にあります。 それは、机上の空論ではない、実際に生きてきたパートナーシップと、現実の生活から滲み出るものなのです。
夫婦として、そして家族としての愛情、挑戦、日々のユーモア、そして静かな時間。そのすべてが、彼らの芸術の原材料となっています。 NHK連続テレビ小説『らんまん』の主題歌となった『笑ったり転んだり』は、その集大成と言えるでしょう。
このタイトルは、長いパートナーシップと家庭生活の現実、すなわち「笑うこと」と「転ぶこと」の両方を、これ以上なく見事に要約しています。 なぜこの歌を彼らだけが作り、歌えたのでしょうか。
その答えは、彼らが歩んできた人生そのものにあるのかもしれません。
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