ありえない飛躍――カルト映画の殺し屋から、国民的ヒロインへ
インディーズ映画界でカルト的な人気を誇るアクション作品『ベイビーわるきゅーれ』シリーズで、スタイリッシュな暴力とブラックコメディの世界を体現してきた髙石あかりさん。この度、日本の家庭に長年親しまれてきた国民的コンテンツであるNHK連続テレビ小説『ばけばけ』のヒロインに抜擢されました。
片やシリアスながらも甘さのあるラブコメディ、片や明治時代の歴史と人情を描くヒューマンドラマという、対極的な世界観を持つ作品へのキャスティングは、多くの人々に驚きを与えています。
なぜこの異例とも言える抜擢が実現したのでしょうか？彼女のキャリアにとって、この飛躍は一体何を意味するのか？そして、私たちは次期朝ドラヒロインとして、彼女に何を期待すべきなのか？
この記事では、この魅力的な「ギャップ」を徹底的に解き明かし、「髙石あかりという女優」の特異な才能とその挑戦の軌跡を深掘りしていきます。
第1章 髙石あかりとは何者？
スターの原点…
まず、髙石あかりさんのプロフェッショナルな経歴と人物像についてご紹介します。
髙石あかりさんは、2002年12月19日生まれ、宮崎県出身です。
2014年にエイベックス主催の「キラットエンタメチャレンジコンテスト2014」でナルミヤオンライン賞を受賞し、芸能界入りしました。その後は、2016年から2018年までダンスボーカルグループ「α-X’s（アクロス）」のメンバーとして活動。ダンスパフォーマーとして活躍していました。当時の芸名は「あかり」。このグループは、メジャーデビューを目指していました。
高石あかりさんは、2018年に「α‐X’s（アクロス）」を卒業、そして、2019年には女優として本格活動することを発表します。
2021年7月公開の阪元裕吾監督映画『ベイビーわるきゅーれ』にて、映画作品初主演（伊澤彩織さんとW主演））を果たします。この作品は映画３作品、ドラマ１作品と展開していきます。
髙石あかりさんは、この『ベイビーわるきゅーれ』シリーズで、注目と高い評価を集めました。
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プライベートでは、アニメ鑑賞や編み物が好きで、休日は一日中編み物に没頭することもあるそうです。また、様々な種類の靴下を集める趣味や、一人で渓谷へ散歩に出かけるというユニークな一面も持っています。
食べることが大好きで、ワタリガニのトマトクリームパスタが好物ですが、パクチーは苦手とのこと。集中すると我を忘れるタイプで、1000ピースのジグソーパズルを完成形を見ずに4日で作り上げたエピソードもあります。
尊敬する人物として、井上真央さんや、AAAの西島隆弘さんの名前を挙げており、西島さんのパフォーマンスから多くを学んでいると語っています。また、2025年7月公開の映画『夏の砂の上』で共演した松たか子さんからも大きな刺激を受けたそうです。
第2章 『ベイビーわるきゅーれ』は彼女の女優人生を決めた？
覚醒の時…
繰り返しますが、髙石あかりさんの女優としての才能を決定づけ、世に知らしめたのが、阪元裕吾監督による映画『ベイビーわるきゅーれ』シリーズです。
この作品は、社会に馴染めない女子高生殺し屋コンビの杉本ちさと（演・髙石あかりさん）と深川まひろ（演・伊澤彩織さん）の日常と本格的なアクションを描き、その独自の魅力でカルト的な人気を獲得しました。
ちさとというキャラクターは、自由奔放に見えながらも冷静な一面を持つ二面性があり、髙石あかりさんの演技が作品の成功に不可欠でした。アクション未経験でありながら厳しいトレーニングを重ね、役柄が求める身体能力を完全に習得した点も特筆されます。
批評家からは「コメディエンヌセンス」や「変顔なんて一級品」と評されるほどの豊かな表現力を発揮し、その多面的な才能がこのシリーズで完璧に披露されました。
テレビドラマ版『ベイビーわるきゅーれ エブリデイ!』では、パワハラに耐えかねて涙を流すシーンが「あまりにもリアルで、こちら側まで胸が締め付けられる思いでした」と評され、彼女の幅広い表現力が証明されています。
この『ベイビーわるきゅーれ』シリーズでの成功は、髙石あかりさんにとって、単なるキャリアアップ以上の意味を持ちます。
それは、朝ドラのヒロイン選考という極めて厳しいプロセスにおいて、彼女の才能を証明する最高の「オーディションテープ」として機能したと言えるでしょう。
2025年2月に発表された「2025年ネクストブレイクランキング」の女性俳優部門で1位に輝いた際、『ベイビーわるきゅーれ』で見せた「演技力、身体能力、コメディセンス」が総合的に称賛されています。
また、『ばけばけ』の脚本家であるふじきみつ彦氏が、髙石さんを「ばけていく魅力」と評したように、ちさと役で見せた変幻自在な表現力は、まさに朝ドラヒロインに求められる資質そのものでした。
インディーズ映画での成功が、国民的ドラマへの抜擢という、一見すると対照的なキャリアの飛躍に明確な因果関係をもたらしたのです。
第3章 NHK朝ドラ『ばけばけ』の世界
国民的舞台へ…
次に、髙石あかりさんが主演を務めるNHK連続テレビ小説『ばけばけ』について、その世界観を詳しく見ていきましょう。
2025年度後期に放送予定の『ばけばけ』は、明治時代の島根県松江を舞台に描かれる物語です。主人公は、没落士族の娘である松野トキ（演・髙石あかりさん）で、怪談を愛する少し変わった人物として描かれます。この物語は、実在の人物である小泉セツ（1868-1932）をモデルとしており、夫ヘブン（演・トミー・バストウさん）のモデルは、日本で「怪談」を著したことで知られるラフカディオ・ハーン（小泉八雲）です。
ドラマは、急速な西洋化が進む明治の日本において、時代に取り残されがちな人々や何気ない日常に光を当てることを目指しています。タイトルである『ばけばけ』は、世界や人々の価値観が「化けていく」様を描くことを示唆しています。ヒロインは、従来の朝ドラのような「夢を叫ぶ」タイプではなく、「非定型的な朝ドラ」としての独自性が強調されています。
『ばけばけ』の放送開始は、2025年9月29日を予定しています。
この作品は、松江市を舞台としており、観光や地域振興につなげるための官民組織「小泉八雲・セツのドラマをイカしてバケる松江推進協議会」が発足するなど、地域を挙げての盛り上がりも期待されています。
第4章 殺し屋ちさとから、明治の語り部トキへ
二つの役柄…
『ベイビーわるきゅーれ』の杉本ちさとと、『ばけばけ』の松野トキ。一見すると正反対に見えるこれらの役柄を、髙石あかりさんはどのように演じ分け、そしてその間にどのような共通点を見出すのでしょうか。
ちさと役では、現代的なアドリブ感のある会話劇と爆発的な現代アクションが特徴でした。一方、トキ役では、明治期の所作に基づいた繊細な身体表現と格式ある言葉遣いが求められることになります。テーマ性も大きく異なり、ちさとの物語が社会不適合者が暴力で自己を確立するものであるのに対し、トキの物語は激動の時代に言葉や物語の力で文化と人々の心をつなぐものです。
しかし、これらの対照的な役柄を繋ぐのは、髙石あかりさんの卓越した演技力です。彼女は役柄によって全く違う顔を見せる「カメレオン女優」と評され、力強い「目の演技」や、役に憑依するほどの没入型の演技スタイルが特徴です。
以下の表に、二つの役柄の主な属性を比較します。
| 項目 | 杉本ちさと（ベイビーわるきゅーれ） | 松野トキ（ばけばけ） |
|---|---|---|
| 時代・舞台 | 現代・東京 | 明治時代・島根県松江 |
| 職業 | プロの殺し屋 | 住み込み女中、語り部、学者の妻 |
| 性格 | 社交的、衝動的、自由奔放だが冷静 | 物静か、観察眼が鋭い、「少し変わった」、物語好き |
| 求められる技能 | 射撃、近接格闘術、社会的擬態 | 物語の伝承、文化的知識、忍耐力、共感力 |
| 物語の葛藤 | 裏社会での生存競争と社会への不適合 | 貧困、時代の急激な変化、夫との文化・言語の壁 |
| ジャンル | アクション、ダークコメディ、日常系 | 歴史ドラマ、伝記、ヒューマンドラマ |
第5章 『ばけばけ』で注目すべき主要人物
物語を彩る人々…
『ばけばけ』の物語をさらに魅力的にするのは、髙石あかりさん演じる松野トキを取り巻く個性豊かな共演者たちです。
ヒロインの夫であるヘブン役を演じるのは、英国出身の俳優トミー・バストウさんです。彼は独学で日本語を習得し、日本の古い映画や文化、武士道に魅了されてきたという経歴を持ちます。ドラマ『SHOGUN 将軍』での日本語を話すポルトガル人司祭役でも注目を集めました。自身も異邦人として日本に生きるバストウさんの存在は、文化や言語の壁を越えて心を通わせるトキとヘブンの関係に、より深いリアリティを与えるでしょう。
また、トキとヘブンの人生に大きな影響を与える松江中学の英語教師・錦織友一を演じるのは、吉沢亮さんです。錦織友一は小泉八雲の盟友であった西田千太郎がモデルとされています。
松野家の人々としては、トキの父親・松野司之介を岡部たかしさん、母親・松野フミを池脇千鶴さん、祖父・松野勘右衛門を小日向文世さんが演じます。
さらに、松野家の親戚である雨清水傳を堤真一さん、トキに礼儀作法や茶道などの教養を指導する雨清水タエを北川景子さん、雨清水家の三男・雨清水三之丞を板垣李光人さんが演じることも発表されています。
これらの実力派キャストが、トキの成長と彼女が生きる世界を豊かに形成していくことでしょう。
まとめ
女優・髙石あかりの「化ける」魅力…
髙石あかりさんのNHK連続テレビ小説『ばけばけ』ヒロイン抜擢は、単なる幸運ではありません。それは、応募総数2892人の中から最終オーディションで満場一致で決定したという、奇跡的な選考プロセスを経てのものです。そして、その背景には、インディーズ映画『ベイビーわるきゅーれ』での鮮烈なブレイクから頂点へと駆け上がった、彼女の稀有なキャリアの軌跡があります。
『ばけばけ』という作品の「化ける（変身する）」というテーマは、モデルとなった小泉セツが激動の時代を生き抜くために自身を何度も「化け」させた人生と、役柄によって全く異なる顔を見せる「カメレオン女優」としての髙石あかりさん自身の特質とが、見事に共鳴しています。この抜擢は、変化する時代の朝ドラの在り方を示す一つの象徴であり、確立された知名度以上に本物の才能を重んじるという制作陣の宣言とも言えるでしょう。
髙石あかりさんの歩みそのものが、まさに『ばけばけ』の精神を体現しています。彼女の新たな代表作となるだけでなく、国民的女優としての地位を確立する戴冠式となるであろう『ばけばけ』、そしてこれからの髙石あかりさんの挑戦に、ぜひご注目ください。
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