「釣り記事」と消費税優遇:新聞社のデジタル戦略の光と影

  • URLをコピーしました!
 *本記事を含め、当サイトでは広告を掲載しています。

デジタル時代の新聞社の苦悩…。

インターネットで検索すると、検索結果の上位に新聞社のニュース記事が上位表示されることがよくあります。しかし、それらの記事を読み進めると、途中から「以下、有料会員限定」といった表示に遮られ、続きを読むためには会員登録や課金が必要になるケース(いわゆる「ペイウォール型配信事業(※1)」というやり方)が増えています。

このような「釣り記事(※2)」とも呼べる手法は、「消費税の軽減税率という優遇措置(※3)」を受けている新聞社が採用する収益モデルとして、様々な議論を呼んでいます。

本稿では、新聞社のデジタル戦略における「釣り記事」の実態と、消費税優遇との関係性について多角的に検討し、その評価と今後の展望を探ります。

スポンサーリンク

※1【ペイウォール型配信事業とは?】

ペイウォール型配信事業とは、デジタルコンテンツへのアクセスを制限し、有料会員または有料購読者のみが全コンテンツを利用できる仕組みです。具体的には、ウェブマガジン、ニュースアプリ、動画サイトなどで、有料会員に独占コンテンツを提供することで収益を上げる事業形態を指します。(Search Labs | AI による概要)

※2【釣り記事とは?】

「釣り記事」とは、大げさなタイトルや内容で閲覧者のクリックを誘い、実際の記事内容とのギャップで読者を不満にさせるような記事を指します。別名「クリックベイト」とも呼ばれます。インターネット記事やSNSの投稿などで見かけます。(Search Labs | AI による概要)

※3【新聞の消費税優遇とは?】

新聞の消費税優遇は、軽減税率(8%)が適用されるというもので、主に定期購読の新聞に対して適用されます。週2回以上発行される、政治、経済、社会、文化などに関する一般社会的事実を掲載する新聞が対象です。(Search Labs | AI による概要)

目次

新聞社のデジタル化と「釣り記事」の実態

① 新聞社の「釣り記事」は、デジタル時代の生き残り戦略の一環として行われています。

紙の新聞の購読者数が減少する中、多くの新聞社はデジタルコンテンツを中心としたマルチ収益モデルへの転換を図っています。その一環として、検索エンジンで上位表示されるよう最適化された記事タイトルと冒頭部分を無料公開し、本文の途中からペイウォール(有料の壁)を設ける手法が広がっています。この手法は、ユーザーの興味を引きつけながら有料会員への転換を促す狙いがあります。タイトルで惹きつけて、記事は一部のみで、全文については有料というのは、検索ユーザーを満足さえないという点で「釣り記事」です。


② 新聞社は広告収入の減少と紙媒体の衰退により、新たな収益源を模索せざるを得ない状況にあります。

日本の新聞広告費は2000年の約1兆2,500億円から2023年には約3,400億円へと激減しており、従来の収益モデルが崩壊しつつあります。また、紙の新聞の発行部数も年々減少し続けており、デジタルコンテンツによる収益化は新聞社の生き残りにとって不可避の課題となっています。


③ 日本経済新聞社は「日経電子版」で成功を収め、他社もこのモデルを追随しています。

日本経済新聞社は2010年に「日経電子版」を開始し、2023年7月時点で有料会員数87万人を獲得するなど、デジタル戦略で先行しています。この成功を受け、他の新聞社も同様のペイウォールモデルを導入し、記事の一部を無料公開して読者を引き込む戦略を採用しています。


④「釣り記事」は短期的な効果はあるものの、長期的な信頼性の低下というリスクを伴っています。

「釣り記事」と呼ばれる手法は、短期的にはクリック数やページビューを増やす効果がありますが、読者の期待と実際の内容のギャップが大きいと、メディアへの信頼性を損なう危険性があります。実際、研究によれば、典型的な「釣り」フレーズを使用した記事は、エンゲージメントにマイナスの影響を与えるという結果も出ています。

消費税軽減税率と新聞社の特権的地位

① 新聞は消費税の軽減税率(8%)の対象となっており、特別な優遇を受けています。

2019年10月の消費税率10%への引き上げに際し、新聞は食料品と並んで軽減税率(8%)の対象となりました。ただし、この優遇は「週2回以上発行される定期購読契約に基づく新聞」に限定されており、電子版の新聞やコンビニでの購入は対象外となっています。


② 新聞が軽減税率の対象となった背景には「思索の食料」という考え方と業界の積極的なロビー活動があります。

日本新聞協会は「新聞は思索の食料や栄養源」であり、「読者の負担を軽くすることは、活字文化の維持、普及にとって不可欠」という主張を展開してきました。また、2013年には「軽減税率を求める声明」を出すなど、積極的なロビー活動を行ってきました。


③ 欧州でも新聞への軽減税率適用例はあるが、日本の場合は電子版が対象外という矛盾があります。

イギリス、ベルギー、デンマーク、ノルウェイなどの欧州諸国でも新聞は軽減税率の対象となっていますが、日本の場合、デジタル化が進む中でも電子版は軽減税率の対象外となっており、時代に即していないという批判があります。


④ 消費税優遇と「釣り記事」の組み合わせは、公平性の観点から問題視されています。

新聞社が消費税の優遇を受けながら、「釣り記事」で読者を誘導して有料会員化を図る手法は、他のデジタルメディアとの公平性の観点から問題視されています。また、財務省と新聞社の間には「新聞に軽減税率を適用する代わりに、消費税の増税には反対しない」という密約があるとの指摘もあります。

デジタルメディアの信頼性と「釣り記事」の倫理

① 「釣り記事」はメディアの信頼性を損なう危険性がある

「釣り記事」と呼ばれる手法は、見出しと内容の乖離が大きいほど読者の「期待はずれ」「裏切られた」という感情を生み出し、メディアへの信頼を損なう可能性があります。日本のメディア信頼度調査では、新聞は65.9点と比較的高い信頼を得ていますが、こうした手法の横行はこの信頼を脅かす恐れがあります。


② 短期的な利益追求が長期的な信頼性の低下を招く悪循環が生じている

スポンサーリンク

ウェブメディアが「真偽にかかわらず人目を引くニュースを掲載して閲覧数を増やせば、広告収入を多く稼げる」という構造の中で、「釣り記事」が横行しています。しかし、研究によれば「釣りタイトル」を使用した記事は、エンゲージメントの約4分の1が失われるという結果も出ており、短期的な利益追求が長期的な信頼性の低下を招く悪循環が生じています。


③ グノシーなどのニュースアプリは「釣り記事」対策に乗り出している

ニュースアプリのグノシーは、内容が薄い記事の関心を見出しであおる「釣り記事」の対策として、アプリ利用者の閲覧状況を分析し、釣り記事を排除するシステムの構築を目指しています。また、日本ファクトチェックセンターなどの取り組みも始まっており、ネット空間の信頼性向上に向けた動きが広がっています。


④ メディアの信頼性確保には、内容と見出しの一致、透明性の確保が不可欠である

メディアの信頼性を確保するためには、見出しと内容の一致、情報源の透明性確保が不可欠です。中日新聞社を含む国内外のメディア11団体は「オリジネーター・プロファイル(OP)技術研究組合」を設立し、ニュースの作成者や広告の出稿元の情報を第三者の認証を受けた上で記事や広告に付与する取り組みを始めています。

新聞社のデジタル戦略の未来と読者との関係再構築

① 新聞社は「釣り記事」に依存しない持続可能なデジタル戦略を構築する必要がある

新聞社がデジタル時代に生き残るためには、「釣り記事」に依存せず、質の高いコンテンツと適切な価格設定による持続可能なビジネスモデルを構築する必要があります。日本経済新聞社のように、デジタルファースト戦略と質の高いコンテンツ提供で成功している例もあります。


② 読者との信頼関係の構築が長期的な収益の安定につながる

短期的なページビュー獲得よりも、読者との信頼関係構築が長期的な収益の安定につながります。毎日新聞社のように、顧客管理・課金管理のシステムを内製化し、多様な決済手段を提供するなど、読者の利便性を高める取り組みも重要です。


③ 成功している新聞社のデジタル戦略には共通点がある

デジタル戦略で成功している新聞社には、[1] 質の高いオリジナルコンテンツの提供、[2] ユーザー体験(UX)の向上、[3] 多様な決済手段の提供、[4] データ分析に基づくコンテンツ改善という共通点があります。特に日本経済新聞社は、経済ニュースという専門性の高いコンテンツと使いやすいデジタルプラットフォームの組み合わせで成功を収めています。


④ 消費税制度の見直しと新聞社の自己改革が同時に求められている

消費税の軽減税率制度については、電子版も含めた公平な適用や、特定業界への優遇措置の妥当性について再検討が必要です。同時に、新聞社自身も「釣り記事」に依存せず、読者に真の価値を提供するビジネスモデルへの転換が求められています。

まとめ

デジタル時代における新聞社と読者の新たな関係構築に向けて。

新聞社の「釣り記事」と消費税優遇の問題は、単なる一企業の経営戦略の問題ではなく、メディアの公共性、税制の公平性、そして情報社会における信頼性という多面的な課題を含んでいます。デジタル化が進む中で、新聞社は紙媒体時代の特権的地位に安住するのではなく、質の高いコンテンツと透明性のある課金モデルによって読者との信頼関係を再構築する必要があります。

一方、政策面では、消費税の軽減税率制度について、デジタル時代に即した公平な適用を検討すべきでしょう。「思索の食料」としての価値を認めるならば、その価値は紙媒体に限定されるものではないはずです。

最終的に重要なのは、読者と新聞社の間の信頼関係です。「釣り記事」のような短期的な利益追求は長期的な信頼性の低下を招き、結果的に新聞社自身の存続を危うくする可能性があります。新聞社には、デジタル時代においても公共的な情報基盤としての役割を果たすための自己改革が求められています。

読者としても、質の高いジャーナリズムには適正な対価が必要であることを理解し、信頼できるメディアを支える意識が重要です。デジタル時代における新聞社と読者の新たな関係構築は、健全な民主主義と情報社会の発展にとって不可欠な課題と言えるでしょう。

スポンサーリンク

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

CAPTCHA

目次