ここ最近、Amazonは独占見放題配信作品が結構多いんですね。Netflixに対抗するための政策的なものかもしれません。
今朝は、2月13日に配信スタートしたドラマ『エンジェルフライト -国際霊柩送還士-』の紹介記事を書きました。もうご覧になりましたか。米倉涼子さんの熱演に心を動かされた方も多いでしょう。
さて、実は2026年2月10日(火)にも、有名俳優主演で、とある作品の見放題独占配信がスタートしているんです。それが、長澤まさみさん主演映画『おーい、応為』です。
「葛飾北斎」の名は誰もが知っています。しかし、その傍らに、父に劣らぬ画才を持った娘がいたことを、どれほどの人が知っているでしょうか。
この作品『おーい、応為』は、江戸の天才絵師・北斎の三女であり、自らも浮世絵師として生きた葛飾 応為(かつしか おうい、本名・お栄)の、謎に満ちた人生を描いた作品です。
年代的には江戸時代後期から幕末期にかけてのお話。「時代劇か……」と思われるかもしれません。でも違います。これは、現代を生きる私たちの心にも深く響く、一人の女性の「自立」と「情熱」、そして「才能」の物語です。
- 葛飾応為(お栄)とは何者で、どのような人生を歩んだのか
- 主演・長澤まさみさんをはじめとする、豪華実力派キャスト陣の見どころ
- 実在した応為の実像と、映画で描かれる姿の違い
- 現代に通じる応為の生き方と、創作意欲の本質
映画『おーい、応為』 – 作品概要
本作のメガホンをとったのは、『日日是好日』や『星の子』で知られる大森 立嗣(おおもり たつし)監督です。
静謐(せいひつ)ながらも熱い人間ドラマを撮らせたら右に出る者はいない監督が、浮世絵という「光と影」の世界に挑みました。
長澤まさみさんとは『MOTHER マザー』以来のタッグです。
基本情報
- タイトル:おーい、応為
- 劇場公開:2025年10月17日(金)
- 配信開始:2026年2月10日(火)
- 配信形態:Amazon Prime Video 独占見放題配信中
- 上映時間:122分
- 監 督:大森立嗣
- 脚 本:大森立嗣
- 原 作:
- 飯島虚心『葛飾北斎伝』(岩波文庫刊)
- 杉浦日向子『百日紅』(筑摩書房刊)より「木瓜」「野分」
主な登場人物(キャスト)
- 葛飾 応為 / お栄(演・長澤まさみ):
- 北斎の三女。夫と離縁し、父・北斎が一人住まいの長屋に転がり込みます。当初から、家事は一切せず、そして、絵を描くわけでもなく…。なんだか女を捨てたような女性。
- お栄は、父のことを「鉄蔵」や「おまえ」と呼ぶ。
- お栄の一人称は「おれ」。
- 葛飾 北斎 / 鉄蔵(演・永瀬正敏):
- お栄の父。世界に名を馳せる天才絵師ですが、私生活はズボラで絵以外に興味がありません。娘を「おーい」と呼ぶ。
- 渓斎英泉 / 善次郎(演・髙橋海人):
- 美人画で一世を風靡した浮世絵師。お栄の良きライバルであり、複雑な感情を抱く理解者。
- 魚屋北渓 / 初五郎(演・大谷亮平):
- 北斎の弟子。お栄を見守る頼れる兄貴分。
- こと(演・寺島しのぶ):
- お栄の母。父・鉄蔵とは別居。型破りな父娘の間で家族の絆を支える存在。
映画『おーい、応為』 – あらすじ(ネタバレなし)
物語は、お栄が夫と離縁し、父・北斎のもとへ出戻ってくるところから始まります。
【「おーい」と呼び合う父娘の奇妙な暮らし】
江戸の片隅、画材やゴミで散らかり放題の貧乏長屋。そこで暮らすのは、絵の道を極めることしか頭にない「画狂人」こと葛飾北斎と、その才能を色濃く受け継いだ娘・お栄。
北斎はお栄を名前で呼ばず、いつも「おーい、筆だ!」「おーい、飯だ!」と呼びつけます。そこからお栄は自らの画号を「応為(おうい)」と名乗るようになったと言われています。
史実によれば、応為は南沢等明という町絵師に嫁ぎますが、針仕事をほとんどせず、父譲りの画才と性格から、等明の描いた絵の稚拙さを笑ったため離縁されてしまいます。出戻った応為は、北斎が90歳で亡くなるまでの約20年間、北斎のもとで制作助手を務めたとされています。
【女絵師として、影を描く】
当時、女性が絵師として自立することは極めて困難でした。しかし、お栄は持ち前の豪胆さと圧倒的な筆力で男社会を突き進んでいきます。
彼女が特に執着したのは「光と影」。北斎でさえ「美人画では応為に敵わない」と認めたその才能。史実でも、北斎は「余の美人画は、阿栄におよばざるなり」と語ったと伝えられており、同時代の美人画の名手・渓斎英泉も、応為を「名手なり」と評価していました。
応為の代表作『吉原格子先之図』に見られるような、西洋画のような陰影を駆使した描写は、江戸時代の絵画としては異彩を放つもの。夜の闇に浮かぶ吉原の情景や、人々の心の陰影を鮮やかに描き出す画風は、「江戸のレンブラント」とも評されています。
【交差する想いと、絵師の覚悟】
若き天才・渓斎英泉(髙橋海人)との出会いや、弟子たちとの交流、そして母・こと(寺島しのぶ)との関係。家族としての情愛と、絵師としての冷徹な眼差し。お栄は葛藤しながらも、筆を握り続けることでしか得られない「自由」と「幸せ」を探し求めます。
応為という女性 – 史実と創作のはざまで
ここで、実在した葛飾応為という人物について、少し掘り下げてみましょう。
応為は葛飾北斎の三女として生まれました。生まれは1801年頃、没したのは1866年頃と推定されていますが、詳しいことは分かっていません。一説には1857年に数え67歳で没したという記録もあり、晩年には金沢で亡くなったとも言われています。
応為の人となりについては、様々な逸話が残っています。飯島虚心の『葛飾北斎伝』によれば、応為は「頗る任侠の風を好み、清貧を楽しみて、悪衣悪食を恥とせず」という性格だったとか。また、火事見物が好きで、夜中でも十町二十町離れた火事場まで見に行くこともしばしばだったそうです。
さらに驚くべきは、酒もたばこも嗜んでいたということ(北斎は酒を飲みませんでした)。ある日、北斎の描いた絹本の絵に吸い殻を落としてしまい、「以来烟草を禁ずべし」と自ら誓ったものの、しばらくしてまた元通りになったという、ほほえましい(?)エピソードも。
北斎と応為の生活ぶりも興味深いもの。斎藤月岑の日記によれば、お栄は料理の支度をしたことがなく、食事が終わると食器を片付けることなく放ったらかしにしていたそうです。この親子は生魚をもらうと調理が面倒なため他者にあげてしまうという有様。掃除もろくにせず、紙くずや総菜を包んでいた竹の皮などが散らばった家で、親子は画業にいそしんでいました。散らかりすぎると引っ越しを繰り返し、その回数はなんと93回にも及んだとか。
【応為の画業と謎】
応為の画業については、多くの謎が残されています。現存する応為の落款がある肉筆画は、わずか10点余りしか確認されていません。生涯の大部分を父・北斎の制作助手として過ごしたため、公刊された「錦絵」は全く見つかっていないのです。
しかし、北斎80歳代の作品には、応為の代筆や補助によって完成した作品が存在すると考えられています。特に晩年の北斎の肉筆画には、80歳を過ぎたとは思えない緻密な彩色の作例がいくつかあり、応為がサポートしていたであろうことが推測されています。
応為も弟子を持ち、商家や武家の娘たちに家庭教師として絵を教えていたようです。ある逸話では、北斎の弟子が絵に自信を失っていた際、応為は「何事も自分が及ばないといやになる時が上達する時なんだ」と励まし、その言葉に北斎も「まったくその通り、まったくその通り」と賛同したと伝えられています。
晩年の応為は「筆一本あれば生きていける」と豪語していたといいます。そして、北斎の没後から8年たったある日、「絵の仕事をするため出かける」と言い残し、そのまま家に帰ることはありませんでした。67歳の時でした。
原作は伝説の漫画とノンフィクション!
本作をより深く楽しむために、原作の存在は欠かせません。
飯島虚心『葛飾北斎伝』
明治時代の1893年(明治26年)に刊行された、北斎に関する最も信頼性の高い伝記です。飯島虚心は生前の葛飾北斎と面識があった人々を訪ね、できる限りの資料を捜索、整理してまとめ上げました。応為に関する数少ない記述もここに含まれており、事実に基づいたリアリティを映画に与えています。
杉浦日向子『百日紅(さるすべり)』
江戸風俗研究家としても知られる杉浦日向子さんの傑作漫画。筑摩書房から刊行されています。江戸の空気をそのまま閉じ込めたような粋な物語が、映画のベースになっています。映画は『百日紅』所収の「木瓜」「野分」を原作としています。
もし時間に余裕があれば、Kindleなどで『百日紅』を読んでおくことをお薦めします。映画の中で描かれる江戸の色彩が、より鮮明に感じられるはずです。
『百日紅』は2015年にアニメーション映画化もされており(監督:原恵一)、そちらも併せて観ると、応為という人物への理解がより深まるでしょう。また、朝井まかてさんの小説『眩(くらら)』も、応為を主人公とした名作として知られています。
ここが「ヤバい」! 見どころポイント
配信開始から多くの人々が視聴し、SNSでも話題になっています。
長澤まさみさんの「江戸女」っぷりが凄い
これまでの華やかな役柄とは一線を画し、眉間にシワを寄せ、酒を煽り、一心不乱に筆を走らせるお栄。その姿は「美しい」というより「凄まじい」の一言。彼女の初時代劇映画主演作として、間違いなく歴史に残る名演です。
史実によれば、応為は顎が出ていたため、北斎から「アゴ」と呼ばれていたそうです。長澤さんは、そんな史実上の容貌の特徴というより、応為の内面――豪胆にして自由、小事にこだわらず思ったことをすぐ口にする性格――を見事に体現しています。
永瀬正敏×髙橋海人の化学反応
「変人」北斎を演じる永瀬正敏さんの圧倒的な存在感。そして、King & Princeの髙橋海人さんが瑞々しくも繊細な英泉を好演。特に、お栄と英泉が絵を通じて対話するシーンは、言葉以上の感情が伝わってきて胸が熱くなります。
史実によれば、渓斎英泉は応為より若い世代の絵師で、北斎に私淑していた人物。自著『旡名翁随筆』(天保4年・1833年刊)で、応為を「女子栄女、画を善す、父に従いて今専ら絵師をなす、名手なり」と評価しています。映画では、この英泉と応為の関係が、創作も含めて豊かに描かれているようです。
「光と影」の映像美
応為の代表作『吉原格子先之図』を彷彿とさせるような、映画ならではの照明演出が見事です。闇の中に浮かび上がる提灯の明かり、障子越しに差し込む月光。映画そのものが一枚の浮世絵のような美しさ。
『吉原格子先之図』は、西洋画のような陰影を駆使した描写により、江戸の遊廓・吉原の光と闇を描き出した名作。夜も更けて闇の色が深くなる中で、遊女たちのいる座敷だけが煌々と昼間のような光で包まれている様子が描かれています。この明暗のコントラストこそが、応為の真骨頂なのです。
史実と創作 – 応為の真の姿とは
映画は原作に基づいたフィクションですが、実在の応為についても知っておくと、より深く作品を楽しめます。
応為の特徴的な作風は、当時の浮世絵としては異例のものでした。当時の浮世絵は平面的で明るい画面のものがほとんどでしたが、応為は西洋の絵のように陰影をつけた立体感のある肉筆画を描いたのです。
応為が描いた女性の顔や姿勢は、葛飾北斎が「戴斗(たいと)」を号した1810年(文化7年)頃から、「為一(いいつ)」の号を用いた1820年(文政3年)頃までに手掛けた美人画とよく似ています。特に類似性が見られるのが、葛飾北斎が制作した「雪中傘持ち美人図」の女性で、独特な顔の形状などに、応為の「夜桜美人図」との類似性が指摘されています。
このことから、葛飾北斎の作品において、葛飾応為の代作や補助によって制作された作品があることは、ほぼ間違いないと考えられています。しかし、どの作品に応為の手が入っているかを断定する根拠や証拠は存在しないため、あくまで推測に留まっているのが現状です。
映画『おーい、応為』に関するFAQ
- Q1. ドラマ版などの前作はありますか?
- A1. いいえ、本作は単独の映画作品です。ただし、杉浦日向子さんの漫画『百日紅』は2015年にアニメーション映画化されており(監督:原恵一)、同じく応為を主人公とした作品です。また、2017年にはNHKでドラマ『眩(くらら)〜北斎の娘〜』(宮﨑あおい主演)が放送されています。
- Q2. 時代劇に詳しくなくても楽しめますか?
- A2. 全く問題ありません。むしろ「一人の女性がどう生きるか」という普遍的なテーマが中心なので、現代の物語としてすんなり没入できます。絵を描くこと、創作することへの情熱は、時代を超えて共感できるものです。
- Q3. どこで見られますか?
- A3. Amazon Prime Videoでの独占見放題配信です。2026年2月10日(火)から配信開始。劇場公開は2025年10月17日に終了しているため、現在視聴できるのはプライムビデオだけです。
- Q4. 応為の作品は実際に見られますか?
- A4. はい。代表作『吉原格子先之図』は太田記念美術館(東京・原宿)に所蔵されており、時折展示されます。『月下砧打ち美人図』は東京国立博物館、『夜桜美人図』(春夜美人図)はメナード美術館の所蔵です。
まとめ:魂を削って描く、その先に
「死を扱うことは、生を扱うこと」と言ったのが『エンジェルフライト』なら、この『おーい、応為』は「影を描くことは、光を知ること」を教えてくれます。
何かを極めようとする者の孤独と、それを支える家族の絆。そして、自分の才能を信じて生きることの尊さ。ラストシーンで見せるお栄の表情は、きっとあなたの心に深く刻まれることでしょう。
応為は、北斎の影に隠れた存在でした。しかし、彼女自身が「光と影」を描く名手だったように、その人生もまた、父という巨大な光の影で、独自の輝きを放っていたのです。
現代を生きる私たちにとって、応為の生き方は何を語りかけるのでしょうか。女性が自立することが困難だった江戸時代に、絵師として生きることを選んだ一人の女性。家事も料理もせず、ただ筆を握り続けた応為の姿は、「好きなことで生きる」ことの本質を教えてくれます。
現在、Amazonプライム会員であれば追加料金なしで視聴可能です。もし会員でない方も、30日間の無料体験を利用すれば、本作とあわせて『エンジェルフライト THE MOVIE』(2月13日配信開始)も一気に楽しむことができます。
今週末は、江戸の闇に灯る、一筋の熱い情熱に触れてみませんか?
ラスト・・・ちょっとだけ本音を(?)
見始めて10分くらいして、「あれ、おれ何を見せられているのかな?」と感じました。
それがラストまで続く、不思議な作品。音楽は作品とマッチしていると感じられず、最後まで音楽に違和感がありました。
それでも、北斎が絶命するラストシーン、時間が止まったようなシーンは、理屈抜きで好きです。
なんだかんだいいながら、ラストまで見せてしまうという魅力があるわけです。


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