宮城県が5,700人全職員にAI導入—本当に必要なのは「費用対効果」ではなく「使い方の設計」では? 

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宮城県は、新年度から全職員5,700人に米グーグル社が提供する生成AIの有償版アカウントを付与すると発表しました。

「1人あたり年間132時間の業務削減」という魅力的な試算を掲げ、村井知事自らが「最強の武器」と称賛しています。筆者 taoは、このニュースを聞いて真っ先に「いくらかかるのか?」と考えてしまいましたが、それは本質を見誤っているのかもしれません。

2025年度に実験導入した700アカウント体勢から一気に8倍の5,700アカウントへ。この急拡大には、費用の問題以前に問うべき論点が山積しているのかもしれません。

全員が本当に使いこなせるのか。削減された時間は本当に県民サービスに向かうのか。個人情報入力禁止の制約下で、AIは本当に「雑事」を任せられるツールなのか。数字の華やかさの裏側にある、自治体DXの現実を冷静に見つめる良い機会ではと思い、本記事を書きました。

なお、参照させていただいたニュースはこれです。もちろん、この記事以外の情報もいろいろ調べさせてもらいました。

この記事で分かること
  • 宮城県AI導入の「数字」が隠す本質的な課題
  • 全職員導入という判断の妥当性と潜在的リスク
  • 行政のAI活用で本当に問われるべき3つの論点
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目次

「年間132時間削減」という試算の危うさ

削減時間の根拠は示されていない…

県が掲げる「職員1人あたり年間132時間の業務削減」という数字は、一見すると説得力があります。132時間は約16.5日分、つまり年間労働日の約1割に相当します。しかし、この試算の根拠が記事からは全く見えてこない。また、宮城県庁のホームページでもいろいろ検索してみましたが、当該情報はありません。

先行導入していた700アカウントでの実績データはあるはずです。しかし、それが5,700人全員に適用できるという保証はどこにもありません。

記事には、推進担当者が「使わない日はない」と語っていますが、推進者ですから当然です。一方で、現場の5,000人以上の職員全員が同じレベルで活用できるとは限らな意図考えることに無理があるでしょうか。

今年度の700アカウント導入によって、とてつもないパフォーマンスが出ての全職員にアカウント提供なのでしょうか。

削減された時間は本当に県民サービスに向かうのか

さらに重要な問いは、削減された時間の使い道です。行政経営企画課は「人手不足に直面する中、雑事を生成AIに任せることで職員が政策立案をしたり、現場に足を運んだりする時間を増やすことにつながれば」としていますが、これは希望的観測にですね。

実際には、削減された時間が単に別の業務で埋まるだけ、あるいは人員削減の口実に使われる可能性もあります。「効率化」が目的化し、本来のサービス向上という目的が見失われるリスクを、どう担保するのかが問われているのではないでしょうか。

「雑事」と「本質的業務」の境界線

県は「雑事を生成AIに任せる」としているが、何が雑事で何が本質的業務なのか。文字起こしや資料作成は確かに時間がかかるが、その過程で情報を咀嚼し、論点を整理する思考のプロセスこそが重要ではないのか。

AIに任せることで失われる「考える時間」の価値を、どう評価しているのかが見えてきません。

AI選びの視点は悪くないかも…

筆者 taoは、およそ2年前のChatGPTに始まり、複数のAIをサブスクして使っています。4つのAIを同時にサブスクして比較しながら使っていたときもあります。

現在は、2年以上サブスクし続けたChatGPTを昨年末にやめて、昨年の夏からサブスクとして使い続けたGoogle AI Pro(メインはGemini、サブでNotebookLM)に絞りました。

これ以外にも、無料で、ChatGPT、Claude、Perplexityなどを毎日使っています。

それらの実体験から言って、個人でも組織でも一推しのAIは間違い無くGoogleです。

おそらく、宮城県はGoogle AIのエンタープライズ版をそれなりのディスカウントで使っているのだと思います。

ここでGoogle AIの良さを語ると長くなってしまいますので、ご興味のある方は次の記事を参照ください。

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700から5,700への「8倍拡大」は妥当か

段階的拡大ではなく一気に全員導入を選んだ理由

宮城県は2024年7月から700アカウントで先行導入し、わずか半年余りで5,700アカウントへと8倍に拡大します。通常、新技術の導入では段階的に拡大し、問題点を洗い出しながら進めるのがセオリーですね。

なぜ一気に全職員導入なのか。700アカウントでの検証期間が十分だったのか。それとも、「全国初の包括協定」という看板を優先したのか。この判断プロセスの妥当性が問われています。

デジタルリテラシーの格差をどう埋めるのか

5,700人の職員には、20代の若手もいれば60代のベテランもいます。IT技術部門の職員もいれば、現場作業が中心の職員もいます。このリテラシー格差を無視して全員導入を強行すれば、「使える人だけが使う」状況が固定化するのではないでしょうか。

少し机上の話になってしまいますが、このような全対象者に対しての制度導入をしても、それをフル活用するのはせいぜい2割。なんとか使うよというのが6割。残り2割は使わない…。根拠データを示せませんが、机上で考えるにこうなるのではと心配しています。

研修体制やサポート体制の整備が追いついているのか。記事からはその具体策が見えていません。

知事のトップダウンが組織文化と合致しているか

村井知事自身が生成AIでイメージソングを制作するなど、積極的に活用しているとのこと。トップの姿勢は重要ですが、それが現場の実態と乖離してはいないでしょうか。

「知事が使えと言うから使う」という形式的な利用に陥れば、132時間削減どころか、むしろ非効率を生む可能性もあります。

ところで…

AIを組織でフル活用するためには、組織全体のリソースを共用できる状態にあることが必須です。逆に言うと、フル活用できるかどうかは組織文化に依存するということ。

何を言いたいかというと、行政組織のような縦割りでは、情報リソースも縦割りになっていることがあるかもしれませんね。

それを適正な形態で壊すのは誰ですか?AIツールをあてがわれた個々人ですか?

それとも、今年度の700人分のアカウント導入でその下地は完成したのでしょうか。

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個人情報入力禁止という制約の重さ

自治体業務の大半は個人情報を扱う

県は2023年6月に「個人情報の入力禁止」を原則としたガイドラインを策定しています。これは当然のリスク管理ですが、同時に大きな制約でもあります。

自治体業務の大半は住民の個人情報を扱います。福祉、税務、教育、医療など、核心的な業務でAIを使えないとすれば、本当に「雑事」だけで132時間も削減できるのでしょうか。

会議の文字起こしも制約だらけ

記事では「会議の文字起こし」が活用例として挙げられていますが、会議では、個人名や個別案件が出ない方が珍しいですね。

結局、音声データから個人情報部分を手作業で削除してからAIに渡す、という二度手間になる可能性もあります。

著作権への留意も現場の負担に

前述のガイドラインには「著作権への留意」も盛り込まれています。

AI生成物が他者の著作権を侵害していないかを、誰がどうチェックするのか。結局、職員が慎重に確認作業をする必要があり、これも新たな業務負担となります。

つまり…

省力化を狙いにAIの本格的・組織的運用を図るには、前提として、運用ルールの策定と徹底が必要だということになります。

このあたり、筆者のような個人がAIを活用するのとはレベルが違う話となります。

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行政AI活用で本当に問われるべきこと

効率化ではなく「質の向上」を指標にすべき

自治体のAI導入を「時間削減」を目的とし、それで評価するのは危険ではないでしょうか。本来問われるべきは、県民サービスの質が向上したかどうかではないかと考えます。

窓口対応が丁寧になったか、政策の精度が上がったか、職員が住民の声に耳を傾ける余裕ができたか。こうした定性的な指標こそが重要なはずだ。

ただし、これらの結果を以下に導入評価にフィードバックするかという課題もあります。

AIに任せるべき業務と人間が向き合うべき業務の線引き

行政サービスには、定型的な業務とそうでない業務があります。AIが得意なのは前者ですが、住民の複雑な事情に寄り添い、制度の隙間を埋める判断は人間にしかできません。

この線引きを明確にせずに「とりあえず全員に配る」、あとは「各個人で頑張って(というよなレベル)」では、かえって混乱を招くだけではないでしょうか。

「最強の武器」という言葉の危うさ

村井知事の「最強の武器」という表現には違和感があります。AIはツールであり、武器ではないからです。「敵」は誰なのか。効率化を競う相手は他の自治体なのか。

ちょっと揚げ足取りっぽくなってしまいました…。

とにもかくにも、「最強の武器」というこの発想自体が、住民サービスという本来の目的から目を逸らしている可能性があるのかもしれません。

行政に必要なのは「武器」ではなく、住民に寄り添う「道具」のだからです。

一方、次のような悪巧み(?)もあるのかもしれません。以下、筆者 taoの妄想です。

課題を乗り越えた先にあるもの…

筆者は行政組織にAIをどんどん導入することを否定する意図も姿勢もありません。どんどんやってくださいと考えています。

ただし、その前提となる問題をいくつか提示しました。

AI活用のための組織内リソースの縦割りをどう、適正に壊すか。誰が壊すか。

AI活用のためのガイドラインを遵守しながら運用ルールをどう確立し徹底するか。

そもそもAI活用の目的をどこに置くか。効率?生産性?それで本当にいいの?

その他、AI生成につきものの、ハルシネーションを組織としてどう回避していくのか。

などなど。

それから、おそらく、全職員にアカウントを貸与しても、2割が徹底的に使い、6割はなんとか使い、2割は全く使いません。

全く使わない2割が明確になったら、彼らに「使えないという烙印」を押しますか?

もし、そういう2割がハッキリしたら、なんとかしてほしいですね。組織には不要だと思います。それを断行できますか?

そもそも、今の規模の職員が必要ですか?そういうことにAIが活用できますか?

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宮城県のAI導入に関するFAQ

  • Q1: 他の自治体でも同様の全職員導入は進んでいますか?
    • A1: 現時点では宮城県のような大規模な全職員導入は珍しく、多くの自治体は特定部署での試行段階にとどまっています。
  • Q2: 700アカウントでの先行導入の成果は公表されていますか?
    • A2: おそらく今年度の実験導入で、それなりの成果と実績があっての拡大判断だと思います。ただし、記事では具体的な成果データは示されておらず、県のホームページでもそのような情報は見当たらず、推進担当者の感想レベルの情報にとどまっています。
  • Q3: AI導入で人員削減は予定されていますか?
    • A3: 記事からは明確な言及はありませんが、「人手不足に直面する中」という表現から、将来的な人員抑制の可能性は否定できません。
  • Q4: 職員への研修体制はどうなっていますか?
    • A4: 具体的な研修計画については記事では触れられておらず、サポート体制の詳細は不明です。
  • Q5: AI生成物の責任は誰が負うのですか?
    • A5: 行政文書としての責任は最終的に職員・自治体が負いますが、AIの誤情報による問題発生時の責任分担は明確化されていません。
  • Q6: Google以外のAIサービスは検討されましたか? それからAI運用コスト規模は?
    • A6: 記事からは選定プロセスが不明ですが、2024年9月にGoogleと全国初の包括協定を締結しているようです。ニュース記事にもGoogleと明記されているので、検討過程は不明ですが、Google AIのエンタープライズ版であるようです。これは1ユーザー月間 30ドルのサービスです。当然ボリュームディスカウントはあると思いますが、年間 1.5億円から2億円くらいの費用になると推定します。
  • Q7: 議会での議論や住民への説明はありましたか?
    • A7: 新年度予算案への計上が予定されているため、今後議会での審議が行われると思われますが、現時点での詳細は不明です。
  • Q8: セキュリティ上のリスク管理はどうなっていますか?
    • A8: 個人情報入力禁止の原則は定められていますが、それ以外の具体的なセキュリティ対策については記事では言及されていません。
  • Q9: 無償版から有償版への切り替えで何が変わりますか?
    • A9: 一般的には利用制限の緩和、高度な機能、セキュリティ強化などが期待されますが、宮城県のケースでの具体的な差異は明示されていません。宮城県は本年度で700アカウントでの導入実験が行われたようですが、当然それらは有償版であると推測します。なので、有償版前提ならば、変わるものはないでしょう。
  • Q10: 132時間削減の試算はどの部署・業務で測定されましたか?
    • A10: 試算の根拠となるデータや測定方法については記事では説明されておらず、検証可能性に欠けます。
  • Q11: AI導入による失敗事例や問題点は報告されていますか?
    • A11: 記事はポジティブな側面のみを強調しており、トラブルや課題については触れられていません。
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まとめ

宮城県の5,700人全職員へのAI導入は、一見すると先進的な取り組みに見えます。

しかし、「年間132時間削減」という数字の魅力に目を奪われると、本質的な問いを見失うかもしれません。本当に問われるべきは費用対効果ではなく、使い方の設計ではないでしょうか。

ここがしっかり設計され、運用されれば、宮城県は素晴らしいモデルケースとなります。

ところで、700アカウントから一気に8倍への拡大は、十分な検証期間を経たのか疑問が残ります。デジタルリテラシーの格差、個人情報入力禁止という制約、AIと人間の役割分担の曖昧さ—これらの課題が整理されないまま「とりあえず全員に配る」では、かえって現場の混乱を招く可能性はないでしょうか。

削減された時間が本当に県民サービスに向かうのか、それとも単に別の業務で埋まるだけなのか。「最強の武器」という表現に象徴されるトップダウンの姿勢が、現場の実態と乖離していないか。行政のAI活用は、効率化という手段が目的化してはならない、等々。

住民に寄り添う質の高いサービスという本来の目的を、常に問い直す必要があります。宮城県の取り組みは、全国の自治体にとって重要な試金石となるかもしれませんし、かえってこれで各行政組織でのAI運用が遅れるかもしれません。

成功の鍵は技術でも予算でもなく、人間中心の設計思想を貫けるかどうかにかかっているのではないでしょうか。

繰り返しますが、個人的には、行政組織には、課題を乗り越えてどんどんAIを導入・活用してもらいたいと考えています。

この記事は、否定的な論調になっていますが、知事のAI導入の方向性の判断には賛辞を送ります。

この記事のポイント
  • 「132時間削減」の試算は根拠不明で、全職員への適用可能性に疑問
  • 700から5,700への急拡大は検証不足の可能性があり、リテラシー格差への対応が不透明
  • 個人情報入力禁止の制約下で本当に「雑事」を任せられるか疑問
  • AIに任せる業務と人間が向き合う業務の線引きが曖昧
  • 効率化ではなく県民サービスの質的向上こそが評価指標であるべき
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