
熱中症対策義務化って何をすればいいの



うちの会社は大丈夫かな
職場で働く私たちにとって、従業員の安全が守られることは重要だけど、具体的な対応がわからないと不安になってしまいます。
まして、その熱中症対策担当となれば、対策を怠ると法的責任を問われ、最悪の場合は業務停止命令を受けてしまうかもしれません。
つまり、熱中症対策義務化を知ることは、そこで働く人たちにとっても、もちろん、その責務を負った担当者にとっても重要なことなのです。
そこで、この記事では、熱中症対策義務化で企業が行うべき5つの必須対応と罰則などについて、基本をまとめました。
義務化としては、2025年6月1日でスタートしていますので、本記事を現状のチェックとしても使っていただければと思います。
- WBGT値測定の具体的方法
- 熱中症予防管理者の選任基準
- 違反時の罰則と対策ポイント
熱中症対策義務化とは?2025年6月から始まる新制度
2025年6月1日から、労働安全衛生規則の改正により、一定の条件を満たす作業を行う企業には熱中症対策の実施が法的義務となり、違反した場合は罰則の対象となります。この制度は段階的に導入され、企業は労働者の安全確保のための対策実施が求められることになります。
企業の人事労務担当者や経営者の皆さんにとって、この制度の詳細を理解し適切な運用をすることが喫緊の課題となっています。
これらの要素を詳しく理解することで、企業が取るべき対策運用の全体像が明確になります。労働災害の防止と企業の法的責任を果たすために、まずは制度の基本的な仕組みを確認していきましょう。
それでは、各項目について具体的に見ていきます。
労働安全衛生規則の改正内容
労働安全衛生規則が改正されました。
この改正により、一定の条件(WBGT値28度以上または気温31度以上の環境で、連続1時間以上または1日4時間以上の作業等)を満たす作業を行う事業者は、熱中症を予防するための具体的な措置を講じることが法的に義務付けられ、違反時には罰則が科されます。従来は努力義務や指針による推奨にとどまっていた熱中症対策が、罰則を伴う法的義務として明文化されたのです。
改正された主な内容は以下の通りです。
- WBGT値の測定と記録の義務化
- 熱中症の早期発見・重症化防止のための体制整備
- 熱中症発生時の対応手順の作成・周知
- 必要に応じた作業環境の改善措置
- 労働者への教育・訓練
特に注目すべきは、WBGT値という科学的指標を用いた客観的な環境評価が義務付けられた点です。これまでの主観的な判断から、数値に基づいた客観的な管理へと大きく転換されました。
この法改正は、単なる努力目標ではなく、企業が必ず実行しなければならない法的責任として位置付けられており、労働者の生命と健康を守るための重要な一歩と言えるでしょう。
義務化の背景と目的
熱中症による労働災害が深刻化しています。
厚生労働省の統計によると、職場での熱中症による死傷者数は年々増加傾向にあり、特に建設業や製造業において重篤な事故が相次いで発生しているのが現状です。気候変動の影響により、夏季の気温上昇と高湿度の日数が増加し、従来の対策では労働者の安全を十分に確保できない状況が続いていました。
例えば、近年では熱中症による死亡災害が年間30人を超え、労働災害による死亡者数全体の約4%を占めています。とりわけ屋外作業や高温環境での作業に従事する労働者のリスクが高く、企業の自主的な取り組みだけでは限界があることが明らかになりました。
このような背景から、国は労働者の生命と健康を確実に守るため、法的な義務として熱中症対策を位置付けることを決定しました。これにより、すべての対象企業が確実に対策を実施し、労働災害の発生を根本的に防止することが期待されています。
また、企業の社会的責任を明確化し、労働者が安心して働ける職場環境の実現を目指しているのです。この義務化は、単なる規制強化ではなく、持続可能な労働環境の構築と企業価値の向上にもつながる重要な施策として位置付けられており、労働者と企業の双方にとってメリットのある制度設計となっています。
施行日と経過措置
今回の熱中症対策義務化は、すでに2025年6月1日から施行されています。
ただし、企業の準備期間を考慮して、一部の措置については段階的な実施が認められており、特に中小企業に対しては配慮された経過措置が設けられています。この経過措置を適切に活用することで、企業は無理のない範囲で確実な対策準備を進めることができるでしょう。
具体的なスケジュールは以下の通りです。
- 2025年6月1日:熱中症対策義務化の施行開始(WBGT値測定等の義務開始)
- 2026年4月1日:中小企業を含め、すべての対象企業での完全実施(経過措置終了)
中小企業(従業員50名未満)については、2026年4月まで一部の措置について準備期間が延長されており、段階的な導入が可能となっています。
また、既存の安全衛生管理体制に熱中症対策を組み込むことも可能です。したがって、企業は自社の規模や業種に応じて、最適なタイムスケジュールで準備を進めることが重要であり、早期の対応により労働者の安全確保と法的責任の履行を両立させることができるのです。
この経過措置期間を有効活用し、確実で持続可能な熱中症対策体制を構築していきましょう。



段階的な実施で準備期間があるんだね!
参考情報
- 厚生労働省「職場における熱中症予防対策マニュアル」
- 厚生労働省「労働安全衛生規則の一部を改正する省令について」
- 建設業労働災害防止協会「熱中症予防対策ガイドライン」
- 中央労働災害防止協会「WBGT値測定器の選び方と使い方」
熱中症対策義務化で企業が何をするべき5つの対応
熱中症対策義務化により、企業は主に5つの対応が求められます。これらの対応は対象となる作業場や条件に応じて段階的に実施されますが、法的義務として定められているものと努力義務・推奨事項が混在しています。法定義務内容を正確に把握し、適切な準備と実行が不可欠です。
人事労務担当者や安全衛生責任者の方々にとって、これらの対応策を確実に理解し実行することが労働災害の防止と法的責任の履行につながります。
これらの対応を体系的に実施することで、労働者の安全確保と企業の法的責任を両立させることができます。各対応の具体的な内容と実施方法について、実務に役立つポイントを中心に解説していきます。
それでは、各対応について詳しく見ていきましょう。
WBGT値の測定と記録
高温多湿な環境での作業において、WBGT値の把握と管理が求められるようになりました。
WBGT(湿球黒球温度)は、気温、湿度、輻射熱の3つの要素を総合的に評価する熱中症リスクの科学的指標です。企業はこの値を定期的に把握し、記録を保存することが求められており、客観的なデータに基づいた熱中症対策の実施が可能になります。
WBGT値測定の実施ポイントは以下の通りです。
- 作業開始前および作業中の定期測定(頻度は法令で明示されておらず、2時間ごとは推奨値)
- 作業場所の代表的な地点での測定実施
- 測定結果の記録と3年間の保存が推奨されています(保存期間は法令上の明確な規定はないが、行政指導等で3年保存が求められる場合あり)
- WBGT値28度以上の場合は、追加対策の実施が求められます(具体的な対策内容は指針やマニュアルに準拠)
- 測定機器の定期的な校正とメンテナンス
測定機器については、JIS規格に適合したWBGT計の使用が推奨されており、価格は目安として5万円から20万円程度となっています。
例として、屋外作業現場では携帯型WBGT計を使用し、製造業の工場内では据え置き型の連続測定装置を導入する企業が増えています。
このように、作業環境に応じた適切な測定機器の選択と運用により、労働者の安全確保と法的要件の遵守を両立させることができるのです。
熱中症予防体制の整備
予防体制の整備が重要です。
企業は熱中症の早期発見と重症化防止のための組織的な体制を構築する必要があり、責任体制の明確化と連絡体制の整備が求められています。この体制により、緊急時における迅速な対応と適切な判断が可能になり、労働災害の発生を効果的に防止することができるでしょう。
予防体制整備の具体的内容は以下の通りです。
- 熱中症対策の責任体制の明確化(責任者の指名は努力義務・推奨事項)
- 現場監督者への熱中症対策に関する教育実施
- 労働者の健康状態確認システムの構築
- 緊急連絡体制と対応手順の策定
- 医療機関との連携体制の確立(これは推奨事項であり、法的義務ではありません)
中でも注目すべきは、労働者の健康状態を日常的にチェックする仕組みの導入です。
例えば、朝礼時の体調確認や作業中の定期的な声かけにより、熱中症の兆候を早期に発見できます。また、作業開始前の健康チェックシートの活用や、ベテラン作業員による新人労働者への見守り体制の構築も効果的な対策として注目されています。
このような多層的な予防体制により、労働者一人ひとりの安全を確保し、企業全体の熱中症対策レベルを向上させることが可能になるのです。
作業環境の改善措置
作業環境の改善が必須です。
WBGT値が一定の基準を超えた場合、企業は作業環境を改善するための具体的な措置を講じることが義務付けられており、労働者が安全に作業できる環境の確保が求められています。これらの措置は、根本的な環境改善から応急的な対策まで幅広く対応する必要があり、計画的な実施が重要となるでしょう。
作業環境改善の主な措置は以下の通りです。
- 冷房設備の設置または既存設備の能力向上
- 換気設備の改善と風通しの確保
- 遮熱材や断熱材による熱源対策の実施
- 休憩場所の冷房化と十分な休憩時間の確保
- 作業時間の調整(早朝・夕方への時間変更)
特に屋外作業においては、日陰の確保やミストファンの設置、冷却ベストの着用など、多様な対策を組み合わせることが効果的です。
例として、建設現場では仮設の休憩所にエアコンを設置し、製造業では局所排気装置の増設により作業環境の温度を下げる取り組みが行われています。
これらの改善措置は初期投資が必要ですが、労働災害の防止と生産性の維持につながるため、長期的な視点での投資として捉えることが重要であり、企業の持続的な成長にも寄与する対策と言えるのです。
労働者への教育訓練
教育訓練が不可欠です。
対象となる作業に従事する労働者に対して熱中症に関する知識と予防方法を習得させる教育訓練の実施が義務付けられており、定期的な実施が推奨されています(年1回以上は推奨値)。この教育により、労働者自身が熱中症のリスクを理解し、適切な予防行動を取ることができるようになり、職場全体の安全意識の向上にもつながるでしょう。
教育訓練で実施すべき内容は以下の通りです。
- 熱中症の症状と重症度の段階的理解
- WBGT値の意味と作業中断の判断基準
- 適切な水分・塩分補給の方法と頻度
- 体調不良時の報告義務と対応手順
- 緊急時の応急処置と連絡体制の確認
教育訓練の効果を高めるため、座学だけでなく実演や体験型の研修を取り入れることが推奨されています。
例えば、実際にWBGT計を使った測定体験や、熱中症症状のロールプレイング、応急処置の実習などを行うことで、知識の定着と実践力の向上が期待できます。
また、新入社員や派遣労働者に対しては、作業開始前の特別教育として詳細な研修を実施し、経験豊富な労働者には最新の対策情報や事例を中心とした更新研修を行うなど、対象者に応じた教育内容の工夫が重要であり、継続的な学習により職場の安全文化を醸成することができるのです。
健康管理と緊急時対応
健康管理体制が重要です。
労働者の日常的な健康状態の把握と、熱中症発生時の迅速な対応体制の構築が求められており、予防から治療まで一貫した管理システムの整備が必要となります。この体制により、重篤な熱中症の発生を防ぎ、万が一発症した場合でも適切な対応により被害を最小限に抑えることができるでしょう。
健康管理と緊急時対応の実施項目は以下の通りです。
- 作業開始前の体調チェック(健康状態の記録は推奨事項)
- 高リスク労働者(高齢者・基礎疾患者等)への配慮(特別管理は推奨事項)
- 熱中症発生時の対応手順書の作成と周知
- 応急処置用品の配備(定期点検は推奨事項)
- 医療機関への搬送体制の確立(推奨事項)
特に注意すべきは、労働者の個人差を考慮した健康管理の実施です。年齢、体力、基礎疾患の有無、過去の熱中症罹患歴などを踏まえ、個別のリスク評価を行うことが重要となります。
例として、糖尿病や心疾患を持つ労働者には特別な配慮を行い、新入社員や高齢労働者には段階的な作業負荷の調整を実施するなど、きめ細かな対応が求められています。
また、緊急時には現場での初期対応が生命を左右するため、管理者や同僚労働者が適切な応急処置を実施できるよう、定期的な訓練と知識の更新を継続することが、真に効果的な健康管理体制の構築につながるのです。



5つの対応を確実に実施することが重要ですが、法的義務と推奨事項を正しく区別して取り組みましょう!
参考情報
- 厚生労働省「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」
- 中央労働災害防止協会「熱中症予防対策マニュアル」
- 建設業労働災害防止協会「熱中症予防教育テキスト」
- 日本産業衛生学会「職場における熱中症予防指針」
熱中症対策義務化の対象となる3つの作業内容
熱中症対策の義務化は、すべての作業に一律に適用されるわけではありません。WBGT値28度以上または気温31度以上、かつ連続1時間以上または1日4時間以上の作業という環境条件に基づいて義務化の対象が決定されます。自社の作業内容が対象となるかを正確に把握することが重要です。
人事労務担当者や安全衛生責任者の皆さんにとって、対象作業の詳細を理解し適切な対策準備を進めることが法的責任の履行と労働災害の防止につながります。
なお、義務化の対象は特定業種に限定されず、熱中症リスクのある環境下で一定時間以上作業を行うすべての事業者・職種が該当します。各作業の特性と対象条件を詳しく理解することで、企業は適切な対策計画を立案することができるでしょう。
それでは、対象となる作業内容について具体的に見ていきます。
屋外での建設作業
建設業が最重要対象です。
屋外での建設作業は熱中症リスクが最も高い作業の一つであり、義務化の主要な対象となっています。特にWBGT値28度以上または気温31度以上の環境で連続1時間以上または1日4時間以上の作業を行う場合、法的な対策実施が求められており、建設業界全体での取り組み強化が必要となるでしょう。
対象となる可能性が高い建設作業の例は以下の通りですが、これらの作業が義務化の対象となるのは、WBGT値28度以上または気温31度以上の環境で、連続1時間以上または1日4時間以上の作業を行う場合に限られます。
- 土木工事(道路・橋梁・河川工事等)
- 建築工事(住宅・ビル・工場建設等)
- 解体工事(建物・構造物の解体作業)
- インフラ工事(電力・ガス・水道設備工事)
- 造園・外構工事(庭園・駐車場整備等)
建設作業における熱中症リスクは、直射日光への長時間曝露、重労働による体温上昇、安全装備による放熱阻害などが複合的に作用することで高まります。
例として、夏季のアスファルト舗装工事では路面温度が60度を超えることもあり、作業員は極めて過酷な環境にさらされています。
また、高所作業や密閉空間での作業では、さらなるリスク増加が懸念されるため、建設業界では業種別の詳細なガイドラインが策定されており、現場の特性に応じた個別対策の実施が重要となっています。
このような状況を踏まえ、建設業では他業種に先駆けた積極的な熱中症対策の導入が求められており、業界全体での安全意識の向上と対策技術の共有が労働災害防止の鍵となるのです。
製造業での高温作業
製造業も重要対象分野です。
製造業における高温作業は、工場内の熱源や作業環境の特性により熱中症リスクが高く、義務化の対象となる場合があります。対象となるのは、WBGT値28度以上または気温31度以上の環境で、連続1時間以上または1日4時間以上の作業を行う場合です。
対象となる製造業の高温作業は以下の通りですが、これらの作業が義務化の対象となるのは、WBGT値28度以上または気温31度以上の環境で、連続1時間以上または1日4時間以上の作業を行う場合に限られます。
- 鉄鋼業(製鉄・圧延・鍛造作業)
- 鋳造業(金属溶解・鋳込み作業)
- ガラス製造業(溶解炉・成形作業)
- セメント製造業(焼成炉・乾燥作業)
- 食品加工業(調理・殺菌・乾燥工程)
製造業の高温作業場では、熱源からの輻射熱と高湿度が組み合わさることで、体感温度が実際の気温を大幅に上回る環境が形成されます。
例えば、製鉄所の高炉周辺では気温40度、湿度80%を超える環境が日常的に発生し、作業員の体温調節機能に深刻な負荷をかけています。
とりわけ夜勤作業者は体温調節機能が低下しやすく、より注意深い管理が必要となります。
このため、製造業では局所冷房システムの導入、作業ローテーションの最適化、冷却衣服の活用など、多角的なアプローチによる熱中症対策が推進されており、技術革新と安全管理の両立が重要な課題として取り組まれているのです。
農林水産業での屋外作業
農林水産業も対象です。
農林水産業における屋外作業は、自然環境に直接さらされる作業特性により熱中症リスクが高く、義務化の対象となる場合があります。対象となるのは、WBGT値28度以上または気温31度以上の環境で、連続1時間以上または1日4時間以上の作業を行う場合です。
対象となる農林水産業の作業内容は以下の通りですが、これらの作業が義務化の対象となるのは、WBGT値28度以上または気温31度以上の環境で、連続1時間以上または1日4時間以上の作業を行う場合に限られます。
- 農業作業(田植え・稲刈り・野菜収穫等)
- 林業作業(伐採・造林・枝打ち作業等)
- 水産業作業(漁業・養殖・水産加工等)
- 畜産業作業(家畜の世話・飼料給与等)
- 園芸業作業(花卉栽培・庭園管理等)
農林水産業の特徴は、作業場所が分散しており管理者の目が届きにくい環境が多いことです。
例として、広大な農地での単独作業や山間部での林業作業では、熱中症発症時の発見が遅れるリスクが高く、より予防重視の対策が重要となります。
また、農業では早朝から日中にかけての長時間作業が一般的であり、気温上昇とともに作業強度を調整する柔軟な対応が求められています。
水産業においても、漁船上での作業や炎天下での網の修理作業など、特殊な環境での熱中症対策が必要となっており、業界団体による啓発活動と実践的な対策指導が積極的に行われています。
これらの取り組みにより、第一次産業従事者の安全確保と持続可能な生産活動の両立を図ることが、社会全体の食料安全保障にもつながる重要な課題となっているのです。



環境条件をクリアするかどうか、しっかり確認することが大切ね!
参考情報
- 厚生労働省「職場における熱中症予防対策の推進について」
- 建設業労働災害防止協会「建設業における熱中症予防対策マニュアル」
- 製造業安全衛生技術協会「高温職場における熱中症対策ガイド」
- 農林水産省「農作業安全のための指針」
熱中症対策義務化に違反した場合の罰則まとめ
熱中症対策義務化に違反した場合、企業には法的な責任が生じ、複数の形態での罰則が科される可能性があります。人事労務担当者や経営者にとって、これらの罰則内容を正確に理解し、リスク回避のための適切な対策を講じることが重要となります。
罰則は行政処分から刑事罰、民事責任まで幅広く、企業経営に深刻な影響を与える可能性があるため、予防的な対応が不可欠です。
これらの罰則を回避するためには、法的義務を正確に理解し、継続的な対策実施と記録保持が必要となります。違反のリスクを最小限に抑え、労働者の安全確保と企業の持続的経営を両立させるための知識を身につけていきましょう。
それでは、各罰則について詳しく見ていきます。
事業者への罰則規定
刑事罰が科される可能性があります。
労働安全衛生規則に違反した事業者に対しては、労働安全衛生法に基づく刑事罰が適用される場合があり、法人および事業者(代表者等)が処罰の対象となる可能性があります。これらの罰則は企業の社会的信用に深刻な影響を与えるため、確実な法令遵守が求められているのです。
事業者への主な罰則内容は以下の通りです。
- 6か月以下の懲役または50万円以下の罰金(労働安全衛生法第120条:規則違反の場合)
- 両罰規定により法人にも同様の罰金刑が科されます(労働安全衛生法第123条)
- 違反の内容によっては、現場責任者等が「使用者」とみなされる場合に限り処罰対象となることがあります
- 重大な労働災害発生時には、刑法上の業務上過失致死傷罪が適用される場合があります
- 公共工事等においては、重大な違反や災害発生時に自治体や発注機関から指名停止処分を受ける場合があります
特に注意すべきは、熱中症による重篤な労働災害が発生した場合の責任追及です。適切な対策を怠った結果として労働者が熱中症で死亡した場合、事業者や現場責任者に対して業務上過失致死罪が適用される場合があります。
また、建設業においては、労働災害の発生により公共工事の入札参加資格を失うリスクもあり、企業経営に長期的な影響を与えることになります。
このような刑事責任を回避するためには、法的義務の確実な履行と継続的な安全管理体制の維持が不可欠であり、単なるコンプライアンス対応を超えた積極的な安全投資が重要となっているのです。
違反時の行政処分
行政処分が実施されます。
労働基準監督署による監督指導において違反が確認された場合、段階的な行政処分が実施されることになります。これらの処分は企業の事業継続に直接的な影響を与える可能性があり、早期の是正対応が求められているのです。
行政処分の主な内容は以下の通りです。
- 是正勧告書による改善指導(期限付きの対策実施命令)
- 使用停止命令(危険な機械や設備の使用禁止)
- 作業停止命令(違反が認められた作業の一時的または完全停止)
- 計画届出命令(改善計画の提出命令。主に重大違反時に発出)
- 企業名の公表(重大な違反や繰り返し違反の場合、厚生労働省や自治体が公表することがあります)
行政処分の影響は即座に企業活動に現れ、特に使用停止命令や作業停止命令は工期遅延や売上減少に直結します。
例えば、建設現場での作業停止命令により工事が中断された場合、工期遅延による損害賠償責任や信用失墜のリスクが発生します。
また、企業名の公表は取引先や金融機関からの信頼失墜を招き、新規受注の獲得困難や融資条件の悪化につながる可能性があります。
このため、行政処分を受ける前の予防的対策が極めて重要であり、定期的な自主点検と継続的な改善活動により、法令遵守体制を確実に維持することが企業の競争力維持にも直結する重要な経営課題となっているのです。
民事責任のリスク
民事責任も発生します。
熱中症対策の不備により労働者に健康被害が生じた場合、事業者は民事上の損害賠償責任を負う可能性があり、経済的な負担が長期間にわたって継続することになります。これらの責任は刑事罰や行政処分とは別に発生するため、企業にとって重層的なリスクとなっているのです。
民事責任の主な内容は以下の通りです。
- 治療費・入院費等の医療費負担
- 休業損害・逸失利益の補償
- 慰謝料(精神的苦痛に対する補償)
- 後遺障害に対する将来の介護費用
- 死亡事故の場合の遺族への賠償金
民事責任における損害額は、被害者の年齢、職業、年収等により大きく変動しますが、重篤な後遺障害や死亡事故の場合は数千万円から1億円を超える賠償額となることもあります。重度の後遺障害が生じた場合、事案によっては数千万円単位の損害賠償が認定されることがあります。
また、労働者災害補償保険で補償されない範囲については、企業が直接負担する必要があり、特に精神的慰謝料や逸失利益の上積み部分は企業の自己負担となります。
このような民事責任リスクを軽減するためには、適切な安全配慮義務の履行と労働者への十分な教育訓練、さらには民間の労働災害総合保険への加入検討など、多面的なリスク管理戦略も有効です。



罰則を避けるためにも、しっかりとした対策を講じましょう!
参考情報
- 厚生労働省「労働安全衛生法における罰則について」
- 中央労働災害防止協会「企業の安全配慮義務と法的責任」
- 労働基準監督署「労働安全衛生に関する監督指導の実施状況」
- 日本労働弁護団「労働災害と企業責任」
熱中症対策義務化を成功させる3つのポイント
熱中症対策義務化の確実な実施には、単なる法令遵守を超えた戦略的なアプローチが必要です。企業が対策を成功させるためには、計画的な準備、従業員の意識改革、そして継続的な改善活動という3つの重要なポイントを押さえることが不可欠となります。
人事労務担当者や経営者の皆さんにとって、これらのポイントを体系的に実践することで、労働災害の防止と法的責任の履行を両立し、企業の持続的な成長につなげることができるでしょう。
これらのポイントを効果的に実践することで、熱中症対策は職場の安全確保や従業員の健康維持を通じて、結果として生産性向上や組織の信頼性向上につながる可能性があります。法的義務の履行に加え、従業員の安全確保と生産性向上を同時に実現するための具体的手法を確認していきましょう。
それでは、成功のための3つのポイントについて詳しく見ていきます。
計画的な準備と体制づくり
計画的な準備が成功の鍵です。
熱中症対策義務化への対応は、場当たり的な対策では効果が限定的であり、体系的な計画に基づいた準備と組織体制の構築が不可欠となります。特に2025年6月の施行に向けて、企業は段階的かつ計画的なアプローチにより、確実な対策実施体制を整備する必要があるのです。
計画的な準備で重要なポイントは以下の通りです。
- 現状の作業環境とリスクレベルの詳細な調査・分析
- 法的義務として定められた事項と、厚労省ガイドライン等による推奨事項を整理し、自社の状況に応じた優先順位を設定
- 必要な設備投資と予算計画の策定
- 熱中症対策の責任体制の明確化(責任者の指名は推奨事項)
- 実施スケジュールと進捗管理システムの構築
効果的な体制づくりには、経営陣のコミットメントと現場の実情を踏まえた実現可能な計画策定が重要となります。
例として、建設業では現場ごとの環境特性を考慮した個別対策計画の策定、製造業では工程ごとのリスク評価と段階的な設備改善計画の立案が効果的です。
また、中小企業では限られた資源を効率的に活用するため、業界団体や地域産業保健センター等との連携による支援活用も有効な手段となります。
このような計画的アプローチにより、企業は無駄な投資を避けながら確実な効果を得ることができ、長期的な安全管理体制の基盤を構築することが可能になるのです。
従業員の意識向上
従業員の意識向上が重要です。
熱中症対策の効果を高めるには、従業員一人ひとりが主体的に安全行動を取ることが重要であり、教育訓練だけでなく意識向上と行動変容が求められます。従業員が熱中症リスクを正しく理解し、自発的な予防行動を継続的に実践できる安全意識の共有や職場風土の改善が重要となるのです。
従業員の意識向上のための実践ポイントは以下の通りです。
- 体験型教育による熱中症リスクの実感を伴う理解促進
- 職場での成功事例と失敗事例の共有による学習効果の向上
- 管理職による模範行動の実践と積極的な声かけ
- 安全行動を評価・表彰する仕組みの導入(推奨事項)
- 従業員からの改善提案を積極的に採用する参加型アプローチ
意識向上の取り組みでは、従業員の多様性を考慮したきめ細かな対応が効果的です。
例えば、新入社員には基礎的な知識習得に重点を置いた研修を実施し、ベテラン社員には指導者としての役割を担う研修を行うなど、対象者に応じた教育内容の差別化が重要となります。
また、外国人労働者に対しては多言語対応の教材作成や文化的背景を考慮した指導方法の工夫も必要です。
さらに、定期的な安全ミーティングでの情報共有や、熱中症対策に関する改善提案制度の導入により、従業員の主体的な参加を促進することができ、組織全体の安全意識レベルを継続的に向上させることが可能になるのです。
継続的な改善活動
継続的な改善が重要です。
熱中症対策は一度実施すれば完了するものではなく、環境変化や新たな知見に応じて継続的に見直しと改善を行うことが求められています。特に気候変動による環境条件の変化や作業内容の変更に対応するため、定期的な評価と柔軟な改善活動が企業の安全管理レベルを維持・向上させる鍵となるのです。
継続的な改善活動の実践ポイントは以下の通りです。
- 対策効果の定期的な測定と評価システムの構築
- ヒヤリハット事例の収集と分析による予防策の強化
- 最新の技術や手法の積極的な導入と検証
- 同業種や業界団体から共有されている好事例を参考に、自社の実態に即した改善策の検討
- 専門機関や業界団体との継続的な情報交換
改善活動を効果的に進めるためには、PDCAサイクルの実行と改善結果の可視化が重要です。
例として、月次でのWBGT値測定データの分析、四半期ごとの対策効果評価、年次での総合的な見直しといった定期的な評価サイクルの確立が効果的です。
また、IoT技術を活用した環境モニタリングシステムの導入や、AI等を用いた暑熱リスク予測システムやWBGT予測ツールなどの先進技術の導入も一部企業で進められており、そうした最新技術の導入も有効です。
さらに、業界内での情報共有や専門機関との連携により、自社だけでは得られない知見や技術を取り入れることで、継続的な改善レベルを向上させ、企業の安全管理能力を着実に発展させることができるのです。



3つのポイントを意識して、継続的に取り組むことが大切です。
参考情報
- 厚生労働省「職場における熱中症予防対策の進め方」
- 中央労働災害防止協会「安全管理体制の構築ガイド」
- 日本産業衛生学会「職場環境改善のためのPDCAサイクル」
- 安全衛生マネジメントシステム協会「継続的改善活動の実践手法」
まとめ 〜 熱中症対策義務化で企業がすべき対応
今回は、熱中症対策義務化で企業が何をするべき具体的な内容について紹介しました!
- WBGT値の測定・記録が義務化
- 一定の環境条件を満たす作業が対象
- 違反時は行政措置や罰則のリスクあり
2025年6月から労働安全衛生規則が改正され、企業にはWBGT値の測定・記録が義務付けられました。
また対象となるのは、建設業・製造業・農林水産業などに多い、WBGT値28度以上または気温31度以上の環境で連続1時間以上または1日4時間以上の作業を行う場合で、違反した場合は是正勧告や使用停止命令などの行政措置、内容によっては労働安全衛生法に基づく罰則、重大な結果が生じた場合は民事責任を問われる可能性があります。



実際に対策を始めてみると環境条件の確認や測定記録の準備がたいへんだったね
今回の内容を参考に、まずはWBGT値の測定器具の準備から始め、必要に応じて熱中症対策の責任体制を明確にしてください
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