近年、私たちの日常生活に欠かせないツールとなったモバイルバッテリーですが、その利便性の裏側で、発火事故のニュースが後を絶ちません。
特に2025年7月のJR山手線車内での発火事故や10月のANA機内での発煙トラブルは、製品の安全性に対する消費者の懸念を一層高める出来事となりました。
小型で高出力なリチウムイオン電池ですが、強い衝撃や熱に弱く、取り扱いを誤ると発熱・発火といった重大な事故につながる危険性があります。
発火リスクを避けるためには、信頼できるメーカーの製品を選ぶことだけでなく、購入後の適切な使用と管理が不可欠です。
この記事では、モバイルバッテリー発火事故の具体的な事例と原因を深く掘り下げ、あなたのバッテリーの安全性を確認するためのチェックリスト、万が一の際の対処法、そして日常で実践すべき予防策を包括的にまとめました。
- 最新の発火事故事例と火災のメカニズム
- バッテリーの異常を察知するチェックリストと安全な製品の選び方
- 発火時の初動対応と、日常でできる予防習慣
本記事の動画解説&音声解説!

実験的な取組として、本記事の動画解説と音声解説をNotebook LMで作りました。ただし、まだ、ユーザーがコントロールできかねる誤読があります。
内容の間違いは、ほぼ無い・・・と言えますが、誤読については、今後調整していきますので、ご容赦ください。
★2025/10/10 15:00追記
音声解説をGoogle AI Studioで生成したものに変更しました。
【動画解説】
【音声解説】
モバイルバッテリーの発火リスクが高まる理由とは?
実際に起きた発火事故の事例
リチウムイオン電池を搭載した製品に起因する火災は近年急増しており、東京消防庁管内では令和5年中に過去最多の167件が発生しました。製品別では、モバイルバッテリーからの出火が最も多く、令和5年中の製品火災件数の26.3%(44件)を占めています。
特に記憶に新しい事故としては以下のものが挙げられます。
- JR山手線車内での発火事故(2025年7月20日)
- JR山手線新大久保駅から新宿駅間で発生したこの事故では、乗客5名が負傷し、うち1人が手にやけどを負う被害が発生しました。原因となったのは、ティ・アール・エイ株式会社の「cheero Flat 10000mAh」で、この製品は2023年6月15日からリコール対象となっていた未回収品でした。同製品は、これまでに16件の出火事故が報告されています。
- 全日空機内での発煙トラブル(2025年10月9日)
- 那覇を離陸し羽田へ向かう全日空994便の機内で、座席下の乗客の手荷物から煙が発生しました。煙は客室乗務員や乗客により迅速に消し止められ、けが人はいませんでした。この事例は、規則を守って機内に持ち込まれた製品であっても、突発的なトラブルが起きる可能性を示しています。
- 韓国・エアプサン航空機火災事故(2025年1月)
- 韓国の金海空港で発生したこの事故についても、事故調査当局による調査により、モバイルバッテリーからの発火が原因であると結論付けられ、乗客・乗員176人が避難し、7人が負傷しました。
なぜ火が出る?モバイルバッテリー発火の5大原因
リチウムイオン電池はエネルギー密度が高く、電解液として引火性のある有機溶媒を使用しているため、短絡(ショート)が発生すると急激に加熱し、発火に至ります。火災原因は主に以下の要因に集約されます。
- 外部からの衝撃や圧力
- モバイルバッテリーを落としたり、ポケットに入れたまま座ったり、重い物を載せたりするなどの強い衝撃や圧力が加わると、内部のセパレーターが破損し、正極板と負極板が接触して内部短絡が発生します。衝撃を受けた直後だけでなく、時間が経ってから発熱・発火するケースもあるため注意が必要です。
- 製造不良・欠陥による内部短絡
- 製品の製造工程における金属片の混入や電極板の不良、または設計不良によって、電池セル内部で短絡が生じ、異常発熱することがあります。大手のAnkerやcheeroでも、サプライヤーの品質基準逸脱や製造委託先の問題に起因するリコールが過去に発生しています。
- 過充電・充電方法の誤り
- 電池の容量が100%を超えても充電が続く過充電は、電池の状態を不安定にし、劣化や発火の原因になります。純正品ではない充電器(ACアダプター)を使用すると、出力電圧が規格を超えたり、安全装置が機能しなかったりすることで、バッテリーセルが過充電状態となり、発火に至る危険性があります。
- 外部からの加熱
- リチウムイオン電池は熱に弱く、極端な高温下での使用や放置は禁物です。炎天下の車内(特に夏場は60℃を超える場合がある)や、暖房器具の近く、直射日光が当たる場所など、熱がこもりやすい環境は内部の化学反応を異常に進ませ、発火リスクを大幅に高めます。
- 非純正バッテリー・リコール対象品の使用
- ネット通販などで安価に販売されている非純正(互換)バッテリーは、安全保護装置の設計不良などにより、過充電保護が適切に行われないなど、通常使用でも事故につながる高いリスクがあります。また、安全上の問題からメーカーが回収・交換を行っているリコール対象製品を使い続けることも極めて危険です。
あなたのバッテリーは大丈夫?安全性チェック方法
異常の兆候チェックリスト【発火予兆を見逃さない】
発火事故の多くは、予兆となる症状が現れることが多いです。以下の兆候が見られた場合は、内部で異常が発生している可能性があるため、直ちに使用を中止し、購入店や製造・輸入事業者の修理窓口に相談してください。
兆 候 | 詳 細 | 危険度 |
---|---|---|
本体の膨張・変形 | 本体が風船のように膨らんでいる、ケースにひび割れ、へこみ、変形、焦げた跡がある。 | 極めて危険(内部でガス発生の可能性) |
異常な発熱 | 充電中や使用中に、以前よりも熱くなる、または手で持てないほど異常な熱を持つ。 | 非常に危険 |
異臭や異音 | バッテリーから異様な臭い(焦げた臭いなど)がする、または異音(異音)がする。 | 非常に危険 |
機能の異常 | 充電できない、充電の減りが極端に早い、不意に電源が切れる。 | 注意が必要 |
コネクタのぐらつき | ケーブル接続部分がぐらついているなど、物理的な損傷がある。 | 注意が必要 |
安全なモバイルバッテリーの選び方と買い替え基準
安全なモバイルバッテリーの選び方
モバイルバッテリーを購入する際は、信頼できるメーカーやブランドの製品を選ぶのが、最もシンプルで効果の高い方法です。
- PSEマーク(まる形)を確認する
- 2019年2月1日以降、モバイルバッテリーは電気用品安全法(PSE法)の規制対象となり、まる形PSEマークの表示が義務付けられました。このマークは安全基準を満たしていることを示す最低基準です。マークだけでなく、届出事業者名、定格容量、定格電圧が明記されているかも確認しましょう。
- 信頼できるメーカーを選ぶ
- PSEマークはあくまで最低基準であり、メーカーが独自に設ける高い品質基準と、それを維持するためのサプライチェーン管理の透明性が重要です。信頼性の高い国内メーカーの製品を家電量販店などの正規販売店で購入することを推奨します。
- 中古品、非純正品は避ける
- 開封済みの製品や中古品は、過去の取り扱いが不明なためトラブルの原因となるリスクが非常に高いです。また、安価な非純正バッテリーは、設計や品質管理に問題がある可能性が高く、使用を避けるべきです。モバイルバッテリーは新品を購入しましょう。
- 容量(Wh)が明記されているか確認する
- 容量(Wh)が確認できないモバイルバッテリーは、航空機への持ち込みや預け入れが原則不可とされています。安価な製品や古い製品には表示がないものもあるため、注意が必要です。
買い替え基準
モバイルバッテリーの寿命は一般的に約2〜3年、充電回数500〜1000回程度が目安です。
上記「異常の兆候チェックリスト」に挙げられた物理的な膨張、異常発熱、充電容量の著しい低下などの症状が現れた場合は、速やかに使用を中止し、新しい製品への買い替えを検討してください。
発火や異常が起きたときの初動対応と予防策
万が一発火したら?冷静に対応するための3ステップ
- 安全確保と電源遮断
- 発煙・発火を確認したら、まずは周囲の人や自分の安全を確保してください。充電中であれば、直ちにコンセントから充電プラグを抜いて電源を遮断します。煙や火花が激しく噴出している場合は、近づかず、可燃物から遠ざけましょう。
- 大量の水または消火器で消火
- リチウムイオン電池の火災は水で消火が可能です。火花が収まったら、大量の水をかけるか、消火器を用いて消火します。ただし、電池内部の化学反応が完全に停止するまで再発火のリスクがあるため、消火後も注意が必要です。
- 通報と報告
- 消火が困難な場合は、すぐに119番通報し、消防の指示に従ってください。また、対処が落ち着いたら、製造事業者にも連絡し、製品の欠陥が原因であるかどうかを確認しましょう。異常を感じたものの発火に至らなかった場合は、金属製の容器にふたをして密封し、保管してください。
日常でできる発火予防5つの習慣と注意点
火災事故の約8割が使用者の不注意や管理不足に起因しているとの分析結果もあります。以下の5つの習慣を守り、発火リスクを低減しましょう。
- リコール情報を継続的に確認する
- 信頼できるメーカーの製品でもリコールは発生します。消費者庁のリコール情報サイトや経済産業省の公式サイト、メーカーのSNSなどをフォローし、リコール情報を逃さずチェックし、対象製品の場合は直ちに使用を中止して回収・交換手続きを行いましょう。
- 衝撃と高温環境を徹底して避ける
- モバイルバッテリーは精密機器であり、落下などの強い衝撃や、座った際に圧力がかかる取り扱いは避けてください。特に炎天下の車内、暖房器具の近く、直射日光が当たる場所など、極端な高温下での使用や放置は絶対に控えてください。推奨される保管温度範囲は0℃〜35℃です。
- 充電時は目の届く場所で監視する
- 充電中に火災が発生する事例が多いため、充電中は常に目の届く場所で行い、周囲に布団や衣類などの可燃物を置かないようにしてください。また、飛行機内では、2025年7月8日から収納棚への収納が禁止され、常に状態を確認できる場所での充電が協力要請事項となっています。
- 純正品・メーカー指定の充電器を使用する
- 充電には製品に推奨されている製造事業者が指定する充電器やバッテリーを使用し、仕様の異なる充電器を誤って接続しないように注意しましょう。非純正の充電器は過電圧や異常発熱の原因となる場合があります。
- 適切な残量で長期保管し、正しく廃棄する
- 長期保管する場合はバッテリー残量を50%〜80%程度にし、3ヶ月ごとに50%以上まで充電することで、過放電による劣化(膨張)を防げます。不要になったモバイルバッテリーは、ごみ収集車や処理施設での火災を防ぐため、決して一般ごみ(可燃・不燃)に混ぜず、自治体のルールに従い、JBRC協力店や家電量販店などの回収ボックスを利用して正しくリサイクルしてください。
モバイルバッテリー発火に関するFAQ
ここまでの内容と重複しない点に絞って、モバイルバッテリー発火に関する、よくあるQ&Aをまとめました。
- Q1. PSEマークがあれば絶対に安全ですか?
- A1. PSEマークは、安全基準に適合していることを示す最低基準であり、絶対的な安全を保証するものではありません。PSEマーク付きであっても、信頼できるメーカーの製品を選び、日々の使用法にも注意することが重要です。
- Q2. 飛行機内にモバイルバッテリーを持ち込む際の最新ルールは何ですか?
- A2. 2025年7月8日より、モバイルバッテリーは預け入れ手荷物には禁止されており、機内持ち込み手荷物に入れる必要があります。また、容量が160Whを超えるモバイルバッテリーは、機内持ち込みも禁止されています。
- Q3. バッテリーの容量表記WhとmAhの変換方法を教えてください。
- A3. 航空会社ではWh(ワット時定格量)が基準となります。変換式はWh = V (電圧) × mAh (バッテリー容量) ÷ 1000です。
- Q4. 容量表示のないモバイルバッテリーは使用できますか?
- A4. 容量(Wh)が確認できないモバイルバッテリーは、航空会社が安全なバッテリーか判断できないため、飛行機内への持ち込みも預け入れも原則不可です。ただし、航空会社によっては、事前に問い合わせることで対応が可能な場合もあります。
- Q5. 非純正(互換品)バッテリーは危険ですか?
- A5. 非純正バッテリーは、保護回路基板の設計不良や品質管理の不十分さにより、過充電やショートが発生しやすく、非常にリスクが高いです。機器本体のメーカーからの対応や補償も受けられないおそれがあります。
- Q6. 長期間使わない場合の最適な保管方法を教えてください。
- A6. バッテリー残量を50%〜80%にし、35℃以下の涼しく乾燥した環境で保管し、3ヶ月ごとに残量を50%以上まで充電することを推奨します。残量がない状態での長期放置は過放電による劣化(膨張など)につながります。
- Q7. 膨張したモバイルバッテリーはどのように処分すべきですか?
- A7. 膨張したバッテリーは発火・爆発リスクがあるため、通常のリサイクルボックス(JBRC等)では回収できません。使用を中止し、端子を絶縁処理した上で、自治体や販売元(店頭スタッフ)に相談して安全な回収ルートを確認してください。
- Q8. 発火の原因となる「熱暴走」とは何ですか?
- A8. 熱暴走とは、電池内部で異常な発熱が起こった際、その熱がさらに反応を促進し、制御不能な発熱と温度上昇が連鎖的に発生し、最終的に可燃性の電解液やガスに着火する現象です。
- Q9. 充電中に発火することは多いですか?
- A9. 東京消防庁のデータ(令和6年中速報値)では、リチウムイオン電池関連火災の約6割が充電中に発生しており、その中でも「充電方法の誤り(正規品以外での充電)」が最多の要因です。
- Q10. リコール情報を確認するにはどこを見れば良いですか?
- A10. 消費者庁リコール情報サイトや経済産業省のリコール情報では、リチウム電池使用製品専用のページが設けられており、製造業者別の詳細情報を確認できます。
- Q11. バッテリーの廃棄時に塩水につけるのは正しいですか?
- A11. いいえ、塩水につけて処分することは絶対に避けてください。リチウムイオン電池は水と反応して発火する可能性があるため、専門の回収業者や自治体の指示に従って廃棄してください。
まとめ
モバイルバッテリーの発火事故は、製造不良(リコール対象品)や、利用者の不適切な使用、管理不足(衝撃、加熱、誤った充電)といった複数の要因によって増加の一途をたどっています。特に2025年には山手線事故や航空機内での発煙など、公共の場での事故が相次ぎ、その危険性が改めて強く認識されています。
安全を確保するためには、まずPSEマークの確認された製品を選び、信頼できるメーカーの製品を購入することが重要です。しかし、これだけで安心はできず、リコール情報を継続的に確認し、対象品でないかチェックすることが必須です。日々の使用においては、異常な膨張や発熱といった兆候を見逃さず、少しでも異常を感じたら直ちに使用を中止してください。特に、炎天下の車内や暖房器具の近くといった高温環境への放置、および目の届かない場所での充電は、発火リスクを大幅に高めるため厳禁です。
また、リチウムイオン電池を安易に一般ごみに混ぜて廃棄することは、ごみ収集車や処理施設での火災の原因となり、甚大な被害につながります。使用済みバッテリーは、必ず端子を絶縁し、自治体のルールに従ってJBRC回収ボックスなどを利用した適正なリサイクルを行うことが、私たち消費者に求められる社会的責任です。モバイルバッテリーの利便性を享受するためにも、私たち一人ひとりが安全意識を高め、正しい知識と習慣を身につけることが何よりも重要です。
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