アメ車が日本で売れない当たり前な4つの理由、米の不満は関税で解決しない!

  • URLをコピーしました!
 *本記事を含め、当サイトでは広告を掲載しています。

「日本は不公平だ。高い関税のせいでアメリカの車が売れない」。かつて米国の政権トップが声高に叫んだこの主張は、多くの人々の記憶に新しいでしょう。

この言葉は、日米間の貿易摩擦を象徴する便利な物語として、たびたび政治の舞台で繰り返されてきました。しかし、この広く流布された「常識」は、実は決定的な事実誤認に基づいた幻想に過ぎません。

結論から言えば、日本が輸入乗用車にかけている関税は、1978年以来ゼロです [1]。40年以上もの間、制度上の関税障壁は存在しないのです。それにもかかわらず、なぜアメリカ車(アメ車)は日本市場で苦戦を強いられ続けるのでしょうか。

その答えは、関税という単純な問題ではなく、日本の市場構造に根差した、より深く、より複雑な4つの障壁にあります。本稿では、政治的なプロパガンダを排し、データと事実に基づいて、アメ車が日本で売れない「当たり前」の理由を徹底的に解明します。それは次の4点です。

  • アメ車を狙い撃ちにするかのような国内の経済的障壁
  • 日本の環境とは絶望的に相容れない製品特性
  • 米国メーカー自身の致命的な戦略的欠陥
  • 日本の消費者との間に横たわる埋めがたい文化的・心理的な溝

これら4つの複合的な要因が「アメ車が日本で売れない理由」です。

この記事を読めば、なぜこの問題が関税交渉では決して解決しないのか、その本質がすべて明らかになるはずです。

<スポンサーリンク>
目次

第1章:関税という幻想と、本当の経済的障壁

アメ車が売れない理由として最も誤解されているのが「関税」です。しかし、本当の敵は国境の外ではなく、日本の国内に存在します。

ここでは、まず関税という幻想を完全に打ち砕き、アメ車の購入をためらわせる真の経済的障壁、すなわち税制と維持コストという二重の壁について詳述します。

1.1. 政治が語らない貿易の現実?

「関税ゼロ」の不都合な真実…

繰り返しになりますが、日本は輸入される乗用車に対して一切の関税を課していません [1]。これは1978年に撤廃されて以来、半世紀近く変わらない事実です。この一点だけでも、「日本の関税がアメ車の販売を妨げている」という主張が根拠を失うことがわかります。

むしろ、皮肉なことに、米国自身は他国からの輸入品に対して関税を課しています。例えば、トラックには25%という高い関税が設定されています [1]。近年の国際情勢を見ても、米国が自国産業保護のために様々な関税措置を発動してきたことは周知の事実です [2]

では、なぜ事実に反する「関税障壁」という物語が、これほどまでに根強く語り継がれてきたのでしょうか。その背景には、政治的な意図が見え隠れします。

米国メーカーにとって、自社製品が日本の市場ニーズに合っていないという厳しい現実を認めるよりも、「不公正な貿易障壁」という外部の敵を作り出すほうが、はるかに都合が良いのです [4]

関税を問題にすれば、製品開発や販売戦略の見直しといった、コストも時間もかかる根本的な改革から目をそらすことができます。

つまり、この関税問題は、本質的なビジネス課題ではなく、交渉を有利に進めるための政治的なレトリックとして利用されてきた側面が強いのです。

1.2. アメ車を狙い撃ちにする日本の税制?

罰ゲームとしての税金…

アメ車が直面する本当の経済的障壁は、関税ではなく日本の国内税制です。日本の自動車関連税は、主に2つの柱で構成されています。一つはエンジンの排気量に応じて毎年課される「自動車税(種別割)」、もう一つは車両の重量に応じて車検ごとに課される「自動車重量税」です [6]

この税制が、伝統的に「大排気量・高重量」を特徴とするアメ車にとって、極めて不利に働く構造になっています [5]。パワーと存在感を重視するアメリカの車作りが、日本の税制の中では「罰則」の対象となってしまうのです。

この構造的な不利がどれほど深刻なものか、具体的な車種で比較してみましょう。例えば、アメ車の象徴的存在であるジープ・ラングラーと、日本で人気の高いトヨタ・ハリアーの年間の税負担を比較すると、その差は歴然とします。

表1.1: 年間税負担の衝撃的比較

車種モデルエンジン排気量車両重量自動車税 (年額)自動車重量税 (年額換算)年間税負担 合計
ジープ ラングラー アンリミテッド・ルビコン3,604cc2,110kg¥57,000¥20,500¥77,500
ジープ ラングラー アンリミテッド・サハラ1,995cc1,990kg¥36,000¥16,400¥52,400
トヨタ ハリアー Z (ガソリン/2WD)1,986cc1,660kg¥36,000¥16,400¥52,400

注: 自動車税は2019年10月1日以降登録の新車税率を適用 [8]。自動車重量税はエコカー減税非適用、13年未満の場合で計算 (2年分を2で割り年額換算) [10]。車両スペックは各モデルの代表的なグレードを参照 [12]

この表が示す通り、同じSUVというカテゴリーでも、伝統的な大排気量エンジンを搭載したラングラー・ルビコンを選ぶと、ハリアーや2.0Lのラングラーに比べて毎年25,000円以上も多くの税金を払い続けなければなりません。

これは一時的な出費ではなく、所有している限り毎年発生するコストです。支出に慎重な日本の消費者にとって、この差が購入を躊躇させる大きな要因となるのは当然と言えるでしょう [6]

1.3. 所有する恐怖?

高額な維持費と終わらない修理の悪夢…

税金の不利に加えて、アメ車にはもう一つの経済的な壁が立ちはだかります。それは、高額で、かつ予測不能な維持費への不安です。特に「故障が多い」「部品が高い」「修理に時間がかかる」というネガティブなイメージは、過去の評判も手伝って根強く残っています [4]

この問題の核心は、単に修理費用が高いことだけではありません。より深刻なのは、部品の供給体制の脆弱さです [6]。国内に十分な部品在庫がないため、一度故障すると本国から部品を取り寄せる必要が生じ、修理に数週間から数ヶ月を要することも珍しくありません。通勤や家族の送迎に車が不可欠な多くの日本の家庭にとって、長期間車が使えなくなるリスクは致命的です。セカンドカーを持たない限り、このリスクは到底受け入れられません [6]

こうした状況は、消費者の心理にも大きな影響を与えます。ある調査では、アメ車の購入を諦める理由として「価格が高くてローンを組むのが怖い」という金銭面・心理面でのハードルが挙げられています [15]

これは単に車両価格が高いからというだけでなく、購入後に待ち受けるかもしれない「予測不能な出費」と「使えない期間」という二重のリスクを背負うことへの恐怖を反映しています。アメ車を所有することは、便利な移動手段を手に入れるというより、いつ爆発するかわからない時限爆弾を抱えるようなものだと感じられてしまうのです。

この「所有する恐怖」こそが、消費者をアメ車から遠ざける、もう一つの強力な経済的障壁なのです。

<スポンサーリンク>

第2章:日本に合わない絶望的な製品特性

仮に経済的な障壁を乗り越えられたとしても、アメ車は日本の物理的な環境と、消費者が車に求める性能という、より根本的な問題に直面します。

アメリカ大陸の広大な土地を前提に設計された車は、日本の環境ではその魅力を発揮するどころか、数多くの不便を生み出す存在となってしまうのです。

2.1. 「大きすぎる」という物理的な壁

日本の道と駐車場がアメ車を拒絶する…

アメ車が日本で敬遠される最も単純かつ強力な理由は、その「大きさ」です [4]。都市部の狭い路地、すれ違いに気を使う住宅街の道路、そして全国的に標準化されたコンパクトな駐車スペース。日本のインフラは、根本的に大型の車を想定して作られていません。

例えば、前出のジープ・ラングラー アンリミテッドの全幅は約1,895mmです [12]。日本の一般的なコインパーキングの幅は2,500mm程度であり、両側に車が停まっている状況では、ドアの開閉すら困難になります。全長も約4,870mmと、トヨタ RAV4(約4,600mm)[17] に比べて30cm近く長く、駐車枠からはみ出してしまうケースも少なくありません。

これは単なる「少し不便」というレベルの話ではありません。日々の買い物、子供の送迎、通勤といったあらゆる場面で、運転者に絶え間ないストレスを与え続けます。「この道は通れるか」「この駐車場に停められるか」と常に気にしなければならない車は、便利な道具ではなく、厄介な荷物になってしまいます。日本の道路事情そのものが、アメ車に対して「NO」を突きつけているのです。

2.2. 国産車との絶望的な差

「燃費が悪い」は過去の話か…

「最近のアメ車は燃費も良くなった」という声も聞かれます。確かに、ダウンサイジングターボエンジンの採用などにより、かつての「リッター3km」といった極悪燃費のイメージは過去のものとなりつつあります [18]。しかし、問題は「改善したかどうか」ではなく、「日本の市場で競争力があるか」です。その点で言えば、答えは依然として「NO」です。

特に、世界最高水準の燃費性能を誇る日本のハイブリッド車と比較すると、その差は絶望的とさえ言えます。具体的なデータでその実態を見てみましょう。

表2.1: サイズ・パワー・燃費性能の直接対決

カテゴリー車種モデル寸法 (長×幅×高 mm)重量 (kg)パワー (PS)WLTC燃費 (km/L)
スポーツカーシボレー カマロ LT RS4780×1900×13451570275約10.0
日産 フェアレディZ (9M-ATx)4380×1845×1315162040510.2
SUVジープ ラングラー (サハラ 2.0L)4870×1895×1845199027210.0
トヨタ RAV4 (ガソリン/4WD)4600×1855×1685157017115.2
トヨタ RAV4 (ハイブリッド/E-Four)4600×1855×16851670222 (システム)20.6
トヨタ ハリアー (ハイブリッド/2WD)4740×1855×16601650222 (システム)22.3

出典: [12]

この表から分かることは衝撃的です。SUVカテゴリーでは、ラングラーの燃費が約10.0km/Lであるのに対し、同クラスの国産ハイブリッド車(RAV4, ハリアー)はその2倍以上の燃費性能を誇ります。ガソリン価格の高騰が続く日本において、この差が家計に与えるインパクトは計り知れません。

スポーツカーの比較も興味深いものです。カマロは2.0Lターボで健闘していますが、よりパワフルな3.0L V6ターボを積むフェアレディZと同等の燃費です [19]。燃費を重視する日本の消費者にとって、アメ車が「効率の悪い選択肢」と見なされるのは避けられないのです。

2.3. 右ハンドル化という「解決策」が証明した本当の問題

右ハンドル化という「解決策」…

長年、アメ車が売れない理由の一つとして「左ハンドル(LHD)」が挙げられてきました [4]。料金所の支払いや右折時の視認性など、右側通行の日本において左ハンドルが不便なのは事実です。これに対し、メーカー側も対応を進め、現在日本で正規販売されているジープの全モデルや、一部の並行輸入車(フォード・マスタングなど)では右ハンドル(RHD)が選択可能になっています [22]

しかし、ここで重要な事実が浮かび上がります。右ハンドル仕様が導入された後も、アメ車の販売台数が劇的に増加したという話は聞こえてきません。この事実は、極めて重要な示唆を与えてくれます。それは、「ハンドルの位置は、問題の本質ではなかった」ということです。

もしハンドルの位置が販売不振の最大の原因であったなら、右ハンドル車の導入は起爆剤となったはずです。しかし、現実はそうなりませんでした。

これは、消費者がアメ車を避ける理由が、もっと根深い部分、すなわち本稿で指摘してきた「大きさ」「税金の高さ」「燃費の悪さ」「サービス網の不安」といった、より構造的な問題にあることを何よりも雄弁に物語っています。

右ハンドル化という「解決策」は、皮肉にも、それだけでは解決できない本当の問題の深刻さを浮き彫りにしたのです。

<スポンサーリンク>

閑話休題〜わかりやすい音声解説♪

長い文書を読むのはちょっと・・・という方に朗報です!

「アメ車が日本で売れない4つの理由」に関しての音声解説を生成しました。

ここで、閑話休題として、その音声解説をぜひお聞きください。

なお、AIで自動生成していますので、誤読があります。

これ今のところ編集で直せません、ご容赦くださいm(_ _)m

【「アメ車が日本で売れない4つの理由」に関する音声解説  by Notebook LM自動生成】

<スポンサーリンク>

第3章:見えない壁の正体?

ブランド力と販売戦略の致命的欠陥…

製品そのものが日本の市場に合っていないことに加え、アメ車は「そもそも消費者の選択肢にすら入らない」という、より深刻な問題を抱えています。

これは、米国自動車メーカー自身の日本市場に対する戦略の欠如と、長年にわたる努力不足が招いた必然的な結果です。見えない壁の正体は、ブランド力と販売戦略の致命的な欠陥にあります。

3.1. ディーラーはどこに?

買いたくても買えない、直したくても直せない現実…

車を購入し、維持していく上で、正規ディーラーの存在は不可欠です。しかし、アメ車の販売・サービス網は、日本の消費者にとって「ほぼ存在しない」に等しいレベルです [14]

具体的な数字を見ると、その脆弱性は一目瞭然です。かつて日本で事業を展開していたフォードは、2016年の撤退後、アフターサービスを行う認定サービス拠点が全国に約69ヶ所あるのみです [25]。現在、比較的健闘しているジープなどを擁するステランティス・グループですら、正規ディーラー数は全国で約148店舗に留まります [27]

これを国内メーカーと比較すると、その差は天文学的です。最大手のトヨタは、全国に約277社の販売会社が存在し、店舗数は5,000店を超えます [28]。ホンダや日産も、全国津々浦々に数千規模の販売・サービス網を張り巡らせています [30]

この差がもたらす現実は深刻です。多くの日本人にとって、アメ車のディーラーは日常生活圏内には存在しません。実車を見たり、試乗したりする機会が極端に限られるのです [14]

そして、より重要なのは購入後のアフターサービスです。自宅から何時間もかけてディーラーに行かなければならない状況では、安心して車を所有することなどできません。

この「買いたくても買えない、直したくても直せない」という物理的な障壁が、アメ車を検討の土俵から降ろしているのです。

3.2. 「憧れ」を生まないマーケティング?

空気のような存在感…

製品を売るためには、その存在を知ってもらい、魅力を伝え、「欲しい」と思わせるマーケティング活動が不可欠です。しかし、アメ車はこの点で完全に失敗しています。日本のテレビCM、雑誌、ウェブメディア、SNSでアメ車の広告や話題を目にすることは、ほとんどありません [14]

その結果、日本の消費者の意識の中に、アメ車という存在がほとんどないのが実情です。ある意識調査では、アメ車に対して「すごく興味がある」と答えた人はわずか6%、「あまり興味がない」「ほとんど知らない」と答えた人が合計で6割近くにものぼりました [6]。多くの人にとって、アメ車は比較検討の対象にすらなっていない「遠い存在」なのです [15]

対照的に、同じ輸入車であるドイツ車(メルセデス・ベンツ、BMWなど)は、長年にわたる巧みなマーケティング戦略によって、「高級」「高性能」「ステータス」といった明確で強力なブランドイメージを築き上げてきました [14]

また、国産車は「信頼性」「経済性」「安心」という盤石のイメージを確立しています。そのどちらでもないアメ車は、消費者の心に響く「物語」や「所有する理由」を提示できていません。

その結果、ブランドとしての存在感は希薄で、一部の熱心なマニアを除いて「憧れ」の対象とはなり得ていないのです。

3.3. 「努力不足」という身も蓋もない結論?

本気で売る気がなかった米国メーカー…

貧弱なディーラー網と、存在感のないマーケティング。これらは個別の問題ではなく、すべて一つの結論へと繋がります。それは、米国自動車メーカーが「日本市場で本気で車を売る努力をしてこなかった」という、身も蓋もない事実です [5]

ある専門家は、米国メーカーが広大な自国市場に満足し、日本市場の攻略に真剣に取り組んでこなかった「戦略ミス」だと断じています [5]。その証拠に、彼らは日本市場のためだけに特別なモデルを開発したり、既存のモデルを日本の道路事情や税制に合わせて大幅に改良したりする努力をほとんど行ってきませんでした。欧州メーカーが、日本向けに右ハンドル車はもちろん、小型エンジン搭載モデルや特別仕様車をきめ細かく投入してきたのとは対照的です [6]

結局のところ、アメ車の日本での販売不振は、日本市場が彼らを拒絶した結果というよりも、彼ら自身が日本市場への本格参入を怠ってきた当然の帰結なのです。ディーラー網やマーケティングへの投資を惜しみ、市場のニーズを真摯に研究してこなかった。そのツケが、現在の惨状となって表れています。これは、外部要因のせいではなく、完全に自らが招いた「人災」と言えるでしょう。

<スポンサーリンク>

第4章:文化的・心理的な溝

なぜ日本の消費者はアメ車を選ばないのか…

最後のピースは、データだけでは測れない、しかし最も根深いかもしれない「文化的・心理的な壁」です。車選びは、単なるスペックや価格の比較だけではありません。その国の文化や価値観、そして消費者の深層心理が大きく影響します。

アメ車は、この点においても日本の消費者との間に大きな溝を抱えています。

4.1. 国産ブランドという壁?

国産ブランドという「絶対的な安心感」…

日本には、トヨタ、ホンダ、日産をはじめ、世界に冠たる自動車メーカーがひしめいています。これらの国産ブランドは、単なる工業製品のメーカーではありません。長年にわたって築き上げてきた「壊れにくい」「どこでも直せる」「リセールバリューが高い」という評価は、もはや「絶対的な安心感」という名の強力なブランド資産となっています [14]

日本の一般消費者にとって、国産車を選ぶことは、最も合理的でリスクのない「正解」です。一方で、アメ車を選ぶことは、未知のリスクを伴う「挑戦」を意味します。「故障が多い」「部品が高い」といったネガティブな評判が残る中、あえてそのリスクを取ってアメ車を選ぶには、それを上回るほどの強力な魅力や明確な理由が必要です [4]。しかし、多くの消費者にとって、その理由は見当たらないのが現実です。

4.2. 「軽自動車の国」の価値観?

大きいことは良いことではない…

日本の自動車文化を理解する上で欠かせないのが、世界でも類を見ない「軽自動車」という規格の存在です。税制や保険、駐車スペースの問題から生まれたこの小さな車は、日本の自動車市場の約4割を占める巨大な勢力です。この事実は、日本の消費者が車に対して「コンパクトさ」「効率性」「経済性」をいかに重視しているかを物語っています [14]

この価値観は、アメ車が伝統的に掲げてきた「大きいことは良いことだ(Bigger is better)」という思想とは、まさに対極にあります。広大な国土を背景に生まれた、サイズやパワーを誇示するアメリカの車文化は、限られたスペースを有効活用しようとする日本の文化とは相容れません。日本において、車の大きさはメリットではなく、むしろ「維持費がかさむ」「取り回しが悪い」といったデメリットとして認識されがちなのです [14]

アメ車の持つ最大の魅力が、日本では最大の弱点になってしまうという、悲しい文化的すれ違いがここにあります。

4.3. なぜ「外車=ドイツ車」なのか?

輸入車選びの現実…

では、あえてリスクを取って輸入車(外車)を選ぼうとする日本の消費者は、何を求めているのでしょうか。彼らが国産車の「安心感」や「経済性」を捨ててまで手に入れたいのは、多くの場合、「ステータス」「卓越した走行性能」「洗練されたデザイン」といった、特別な価値です。

そして、この「特別な価値」を提供するという点で、圧倒的な成功を収めてきたのがドイツ車です [15]。メルセデス・ベンツやBMWは、長年のブランド戦略により、日本市場において「高級輸入車の代名詞」という地位を確立しました。輸入車を検討する消費者の多くが、まずドイツ車を思い浮かべるのはこのためです。

その結果、アメ車は非常に中途半端な立場に追いやられています。国産車のような「実用性」や「信頼性」はなく、かといってドイツ車のような「高級感」や「ステータス」もない。結局、アメ車は「ワイルドなデザインが好き」といった、ごく一部のニッチな趣味層に向けた「おもちゃの車」というカテゴリーに押し込められてしまっているのです [14]

日本の輸入車市場において、アメ車の主戦場はトヨタではなくBMWやメルセデスですが、そのブランドイメージの戦いにおいて、彼らは全く勝負になっていないのです。

<スポンサーリンク>

日本で販売しているアメ車に関しての、よくあるQ&A

日本で販売しているアメ車に関しての、よくあるQ&Aをまとめました。

Q1: 日本で比較的売れているアメ車はありますか?

A1: はい、ジープブランド、特に「ラングラー」は独自の地位を築き、比較的健闘しています。その理由は、他にはない象徴的なデザインと、本格的なオフロード性能にあります。ラングラーは、一般的な乗用車としてではなく、アウトドアやファッションといった特定のライフスタイルを志向する層に「指名買い」されることで成功しています。中途半端に市場に迎合するのではなく、その唯一無二の個性を貫いたことが、かえってニッチ市場での成功に繋がった稀有な例です。

Q2: 今でもアメ車は全部左ハンドルなのですか?

A2: いいえ、これはよくある誤解です。現在、日本で正規販売されている主要なアメ車の多くは、日本の交通事情に合わせて工場で生産された右ハンドル(RHD)仕様です。例えば、ジープの全ラインナップは右ハンドルで提供されています [22]。しかし、本文で解説した通り、ハンドルの位置が右になったからといって、販売不振の根本的な原因であるサイズ、税金、燃費、サービス網といった問題が解決されたわけではありません [23]

Q3: 「アメ車=燃費が悪い」というイメージは、最新のモデルにも当てはまりますか?

A3: 一概には言えませんが、日本の基準で見ると依然として不利です。確かに、シボレー・カマロに搭載されている2.0Lターボエンジンのように、現代的なエンジンは燃費が大幅に改善されています [19]。しかし、日本の消費者が比較するのは、同じ輸入スポーツカーよりも、むしろ国産の人気車種です。例えば、トヨタ・RAV4のハイブリッドモデルがリッター20kmを超える燃費を実現しているのと比べると、たとえ最新のアメ車であっても「燃費が良い」とは言えず、経済性を重視する層からは選ばれにくいのが現実です(本記事の表2.1参照)。

Q4: 実際に、国産SUVと比べてアメ車のSUVは年間でどれくらい税金が高いのですか?

A4: 排気量によりますが、差は非常に大きくなります。本記事の表1.1で示した通り、例えば3.6Lエンジンを搭載したジープ・ラングラーの年間の税負担(自動車税+重量税)は約77,500円です。一方、2.0Lエンジンを搭載したトヨタ・ハリアーの税負担は約52,400円です。その差は年間で25,000円以上にもなります。これは毎年発生するコストであり、長年所有することを考えると、この差は家計にとって決して無視できない負担となります [7]

まとめ

アメ車が日本で売れないのは、米国政府が主張するような「不公正な関税」が原因では断じてない。その言説は、問題の本質から目をそらすための、政治的に都合の良い神話に過ぎません。真の理由は、日本の市場に深く根ざした、構造的かつ複合的な要因にあります。

本稿で明らかにした4つの核心的な理由を要約しましょう。

  1. 経済的現実:
    • 関税はゼロである一方、大排気量・高重量の車を不利にする国内税制と、高額で予測不能な維持費が、経済的な壁として立ちはだかる。
  2. 製品のミスマッチ:
    • 日本の道路や駐車場には大きすぎ、燃費効率は国産ハイブリッド車に遠く及ばない。製品そのものが日本の環境に適合していない。
  3. 戦略的失敗:
    • ディーラー網やマーケティングへの投資を怠り、日本市場を本気で攻略しようとしなかった米国メーカー自身の「努力不足」が、消費者の無関心を招いた。
  4. 文化的・心理的な溝:
    • 国産車の「絶対的な安心感」と、ドイツ車の「高級感」の狭間で、アメ車は日本の消費者の心をつかむ価値を提供できていない。

結論として、アメ車が日本で売れないのは、ミステリーでも不公正な取引の結果でもなく、これら4つの要因が重なり合った「当たり前」の帰結なのです。

もし米国メーカーが本気で日本市場での成功を望むのであれば、必要なのは関税交渉ではありません。

それは、製品哲学の根本的な見直し、ディーラー網やブランド構築への巨額の投資、そして日本の消費者と文化を謙虚に学び、理解しようとする真摯な姿勢です。

それなくして、アメ車が日本の路上で存在感を示す日は、永遠に訪れないでしょう。

参照情報

  1. 自動車関税率・EPA/FTA | JAMA – 一般社団法人日本自動車工業会
    https://www.jama.or.jp/statistics/facts/tariff/index.html
  2. 米国の自動車関税が日本に与える影響とは?中古車価格への波及を徹底解説
    https://www.car-mizutani.jp/blog/archives/868
  3. 米国関税措置 自動車産業のこれからを考える – トヨタイムズ
    https://toyotatimes.jp/business/004.html
  4. アメリカ車が日本で売れない|Singish – note
    https://note.com/singish/n/nf9ac1c806f1d
  5. Why American Cars Don’t Sell in Japan .. I’ve Watched This Since the ’90s.. – YouTube
    https://www.youtube.com/watch?v=7O-tfNx3Ljo
  6. トランプ大統領がオラついても無駄? 「アメ車」が日本で売れない根本理由、データを読み解く
    https://carview.yahoo.co.jp/news/detail/89912eabb655c49946e937dcf2c151d88de038ed/
  7. 自動車税は13年経過で高くなる?自動車重量税の重課とともに解説 – 三井住友海上
    https://www.ms-ins.com/labo/higoro/article/125.html
  8. 自動車税(種別割)一覧。車にかかる税金はいくら? – チューリッヒ保険会社
    https://www.zurich.co.jp/carlife/cc-difference-tax-certificate/
  9. 【2025年版】車にかかる税金のすべて(自動車税の排気量別一覧表つき) – ガリバー
    https://221616.com/guide/tax/
  10. 自動車重量税 – ソニー損保
    https://www.sonysonpo.co.jp/auto/guide/agde092.html
  11. 自動車重量税とは?重量税一覧(早見表)、エコカー減税についても解説
    https://www.sompo-direct.co.jp/otona/oshiete/car/motor-vehicle-tax.html
  12. ジープ・ラングラーアンリミテッド(クライスラー・ジープ)のモデル・グレード別カタログ情報 – グーネット
    https://www.goo-net.com/catalog/CHRYSLER_JEEP/JEEP_WRANGLER_UNLIMITED/
  13. ハリアーはガソリン車とハイブリッド車どちらを選ぶ?燃費や維持費の違いをチェック
    https://www.nextage.jp/model_guide/toyota/397251/
  14. 「アメ車が売れにくい」のは、燃費とサイズのせいだけじゃない。 – 車買い取り直販店バイキング
    https://buyking.co.jp/archives/2025/05/10/%E3%80%8C%E3%82%A2%E3%83%A1%E8%BB%8A%E3%81%8C%E5%A3%B2%E3%82%8C%E3%81%AA%E3%81%84%E3%80%8D%E3%81%AE%E3%81%AF%E3%80%81%E7%87%83%E8%B2%BB%E3%81%A8%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%82%BA%E3%81%AE%E3%81%9B%E3%81%84/
  15. アメ車はなぜ日本で売れない?その理由と“買わない人の本音”をアンケートで調査 – PR TIMES
    https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000007.000157680.html
  16. アメ車が日本で売れない本当の理由とは?市場攻略のカギと成功戦略を徹底分析!【診断ノート】
    https://song-cs.com/added-value/are-american-cars-really-unable-to-succeed-in-the-japanese-market/
  17. RAV4(トヨタ)の歴代モデル・グレード別カタログ情報 – グーネット
    https://www.goo-net.com/catalog/TOYOTA/RAV4/
  18. [実測]ジープラングラー アンリミテッド(JK型)の燃費。意外と悪くない。 – ikahime Cars
    https://cars.wpx.jp/jeep-jk-nenpi/
  19. 食わず嫌いは良くない! シボレー「カマロ」は左ハンドルで古さを感じるも良質なFRクーペだった (1/4) – ASCII.jp
    https://ascii.jp/elem/000/004/243/4243150/
  20. フェアレディZの燃費・年式型式別|中古車のガリバー
    https://221616.com/search/ranking/nissan/fairladyz/
  21. アメ車だけはやっぱり「左ハン」で乗りたい! 日本仕様の「右ハンドル化」にもの申す
    https://www.webcartop.jp/2024/03/1313762/2/
  22. 今、おじさんが乗ってもカッコいいアメ車はどれか!? 「映えるアメ車3台」を選ぶ! – ベストカー
    https://bestcarweb.jp/feature/column/426127
  23. 【右ハンドルのマスタングが人気な理由】フォード・マスタング右ハンドルの魅力まとめ
    https://www.amemaga.com/article/detail/amemaga20230900_original_summary-mustang_vol1
  24. ノーマルだけど普通じゃない、そんな右ハンドルのマスタングあります! – アメ車マガジン
    https://www.amemaga.com/article/detail/amemaga202307_vol293_fodr05
  25. フォード正規ディーラー車を救え | アメ車と逆輸入車の総合情報サイト アメ車ワールド
    https://amesha-world.com/special/detail.php?id=3262
  26. フォード認定拠点を積極的に選ぶべき理由 – アメ車ワールド
    https://amesha-world.com/special/detail.php?id=3365
  27. Stellantisジャパン、Anyca のカーシェアに本格参入
    https://www.stellantis.jp/news/20220328-stellantis-anyca
  28. トヨタが直営販社の一斉売却で示した意思 残る直営販売はトヨタモビリティ東京だけに
    https://toyokeizai.net/articles/-/364835
  29. トヨタ自動車 – Wikipedia
    https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%A8%E3%82%BF%E8%87%AA%E5%8B%95%E8%BB%8A
  30. YouTube国産正規ディーラー全国ランキング!ホンダカーズ野崎は何位だ!!?
    https://m.youtube.com/watch?v=QtFxAVEIQK8&pp=ygUWI-S6lOaJgOW3neWOn-W4guaghOeUug%3D%3D
  31. 日産自動車 – Wikipedia
    https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E7%94%A3%E8%87%AA%E5%8B%95%E8%BB%8A
  32. ジープ・ラングラーの燃費性能は?ライバルオフローダーと燃費を比較してみよう
    https://www.nextage.jp/suv_guide/importsuv/273487/
  33. 日産:フェアレディZ [ Z ] スポーツ&スペシャリティ Webカタログ | 価格・グレード
    https://www3.nissan.co.jp/vehicles/new/z/specifications.html
<スポンサーリンク>
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

CAPTCHA

目次