11月末、テロ組織を核とする反政府勢力が蜂起、シリアのアサド政権が一気に崩壊し、中東地域だけでなく国際社会全体に大きな影響を及ぼしています。
この記事では、政権転覆に至る背景とその要因、そしてロシアやイランを中心とした国際的な対応についてまとめました。
また、新たな中東秩序の形成に向けた課題や国際社会への波及効果にも触れ、今後の展望を考察します。
さらに、歴史的な視点から政権崩壊までの流れを俯瞰し、さまざまなプレイヤーがどのように影響を及ぼしたのかを明らかにします。
シリア情勢を深く理解し、未来を見据えるための情報をコンパクトにまとめました。
- 政権転覆前のシリア国内・国際情勢
- アサド政権崩壊のきっかけと要因
- ロシア・イランを中心とした国際的対応
政権転覆前のシリア:国内・国際情勢
シリアは長年アサド政権のもとで統治されてきましたが、国内外で多くの課題を抱えていました。ここでは、崩壊前のシリア国内情勢と国際社会の動きをコンパクトにまとめます。
アサド政権下での統治体制と国内の課題
アサド政権は一党独裁体制を維持し、経済停滞や広範な人権侵害が国民生活に影を落としていました。特に2011年のアラブの春以降、反政府運動が全国規模で広がり、国内の安定は大きく揺らぎました。この政権下では、公共インフラの老朽化や若年層の失業率増加が顕著であり、多くの国民が政権への不満を抱いていました。また、反政府勢力の拡大により地方自治が弱体化し、内政の不安定化が進行しました。
シリア内戦の経緯と主要勢力
2011年に始まったシリア内戦は、アサド政権、反政府勢力、ISISなど複数の勢力が関与する複雑な構図となりました。これにより、シリア全土で暴力が激化し、多くの市民が難民化しました。内戦初期には、反政府勢力が地方都市を拠点に活動を開始しましたが、後に国際的な援助を受けて勢力を拡大しました。一方、ISISは混乱を利用して台頭し、地域全体の不安定化を加速させました。
国際的な関与:ロシアとイランによる軍事支援、西側諸国やトルコの対応
ロシアとイランはアサド政権を支援する一方で、西側諸国やトルコは反政府勢力を後押しし、中東地域の緊張が高まりました。特にロシアの空爆支援は、政権維持に大きな役割を果たしました。ロシアは軍事拠点の確保を目的とし、シリア内戦を地政学的な影響力拡大の場と見なしていました。一方、イランはシーア派同盟の強化を目指し、武器供給や戦闘員派遣を行っていました。
アサド政権崩壊のきっかけと要因
アサド政権の崩壊には複数の要因が絡み合っています。本章では、その主要な要因をコンパクトにまとめます。
反政府勢力によるダマスカス制圧までの過程
長期化した内戦の中で、反政府勢力は徐々に勢力を強め、最終的には首都ダマスカスを制圧しました。これにより、アサド政権の権力基盤が完全に崩壊しました。特に2023年に行われた大規模攻勢では、国際社会からの支援を受けた反政府勢力が大きな成功を収めました。この過程で、都市部のインフラが破壊され、多くの住民が避難を余儀なくされました。ちょっとわかりにくいのでリスト化しますね。情報はこちらから。
この動画から、シリア反政府勢力が大規模攻勢を開始し、首都ダマスカスまでまたたく間に近づく経緯を時系列でピックアップしますね。
引用元:シリア反政府勢力はタダで戦車145両、航空機35機を手に入れ、破竹の勢いで進軍
- 11/27にシリア反政府勢力による大規模攻勢開始。
- わずか3日で北部の要衝で第2の都市であるアレッポを制圧。
- さらに、それからわずか5日後の12/5には、中部に位置する第4の都市ハマーを制圧。
- 次の標的となるのが、その南にあるシリア第3の都市ホムスになり、首都ダマスカスまで160kmの場所に位置します。
- ハマー制圧後の翌日にはホムスまで10kmの場所まで進軍しており、政権支持派の住民が退避を始めました。
次に、同じく前述の動画から、アサド政府軍の損失と、反政府軍の軍事力の増強について、ピックアップしてリスト。
オープンソースのMintel Worldによれば…
- アサド政府軍の損失(2024/11/27〜12/5)
- 戦車 145両、装甲・歩兵戦闘車 96両、砲兵システム 87門 、防空システム 18基 、航空機 35機を失っています。これらは政府軍兵士らが逃げたためです。
- 結果、これらは、ほぼ無傷のまま放置されています。反政府軍はこれらを鹵獲(戦いで敵の武器・弾薬・資材をぶんどること)し、戦力化しています。
これだけ大量の兵器類を放棄して政府軍兵士が逃げたということは、もはや政府軍は軍としての機能を失っていたということです。また、この動画情報によると、反政府勢力には、政府軍を抜けた兵士も多数いるとのこと。士気はとことん失墜していたのです。
ウクライナ侵攻によるロシアの支援縮小とその影響
ロシアはウクライナ侵攻による国際的な制裁と経済的圧迫を受け、シリアへの軍事支援を縮小せざるを得なくなりました。この影響でアサド政権の防衛力が大幅に弱体化しました。ロシアの軍事支援縮小は、反政府勢力にとって追い風となり、戦場での優位性を高める結果となりました。また、ロシアの外交的影響力の低下も、アサド政権にとって致命的でした。
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今回の反政府勢力によってアサド政権が崩壊に至った過程、ロシア軍はシリア政府軍を支援しませんでした。
それどころか、ロシア海軍は、半世紀に渡ってシリアにおける戦略的要衝であったタルツゥースの海軍基地から撤退したことが確認されました。アサド政権への支援を約束していたプーチン大統領ですが、シリアでは反政府勢力の侵攻が続いていて、同基地にも脅威が迫りつつあるなか、予防措置として同港から鑑定を撤退させたと推測されています。
引用元:ロシア海軍、半世紀に渡って維持したシリアの戦略的要衝から撤退
経済制裁や国民生活の悪化がもたらした政権基盤の崩壊
国際的な経済制裁と内戦による経済混乱で、国民生活は極度に困窮しました。この状況がアサド政権への国民の支持を著しく低下させました。食料や医薬品の不足が深刻化し、多くの家庭が基礎的な生活必需品を手に入れることすら困難な状況に陥りました。
ロシア・イランを中心とした国際的対応
アサド政権崩壊後、ロシアやイランを含む主要国は新たな中東秩序の形成に向けた動きを見せています。本章では、それぞれの国がどのように対応しているのかをコンパクトにまとめます。
アサド大統領の亡命先としてのロシア:背景と意図
アサド大統領は最終的にロシア・モスクワへ亡命しました。ロシアはこの動きを通じて、自国の中東地域での影響力維持を図っています。亡命先としてのロシアは、アサド家の安全を確保しつつ、ロシア自身の外交的勝利をアピールする意図があると考えられます。
反政府勢力の首都進攻を受けてシリアを脱出したバッシャール・アル・アサド大統領とその家族が8日、ロシア・モスクワに到着し、「人道的配慮から」亡命が認められたと、ロシアの通信社がロシア政府筋の話として伝えた。ロシア国営テレビもこのニュースを報じた。
これを受けてロシア大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官は9日午後の定例会見で、ウラジーミル・プーチン大統領が自ら、アサド氏の亡命受け入れを決断したと記者団に話した。ただし報道官は、アサド氏の居場所について言及しなかった。
引用元:BBC NEWS Japan
イランによる支援体制の変化と中東での影響力低下
アサド政権の崩壊により、イランはシリアを通じた地域影響力を失い、支援体制を大幅に見直す必要に迫られています。イランのシーア派ネットワークは弱体化し、地域内での戦略的優位性が失われつつあります。
トルコや他国による新たな地域秩序形成への動き
トルコを中心とした近隣諸国は、新たな地域秩序形成に向けた協議を進めており、中東全体のパワーバランス再編が予想されています。特にトルコは、難民問題の管理や国境地帯の安定化に注力しています。
「越境3.0チャンネル」主宰・石田和靖氏の見解
YouTubeで「越境3.0チャンネル」を主宰している石田和靖氏によると、現在のシリアの状況は「パレスチナとかイラクとかが向かった方向に非常にシナリオが似ている。つまり、ディープステートによる分断工作。」
石田氏のこのあとの話については、こちらをご覧ください。
大統領選のトランプ勝利もトリガー?
陰謀論のような話を。
11月のアメリカ大統領選挙に当初の大手メディアの予想を裏切り(?)、トランプが当選。彼はまだ大統領には就任していないものの、そのポテンシャルは凄まじい。現大統領の存在などどこ吹く風状態で、各国トップと直接あって「いろいろ」やっている。
シリアでは、HTSというテロ組織が、テロ以外の組織も取り込み大きくなって、反政府組織として大きなものに育っていた。
11月末の最初の攻勢を主導したのは、イスラム武装勢力ハヤト・タハリール・アル・シャーム(HTS)だった。HTSはシリア内戦に長年かかわってきた。
そしてHTSは国連のほか、アメリカやトルコなどの政府から、テロ組織に指定されている。
(中略)
アルカイダと決別して以来、ISが目指して失敗したような広域に及ぶカリフ制の確立を目指したりはせず、HTSはシリアにイスラム原理主義的な統治を確立しようとしてきた。シリア内戦を大々的に再燃させ、アサド政権に再挑戦しようとする動きは、ほとんど見られなかった。今回の事態になるまでは。
引用元:BBC NEWS Japan
今回のシリアのアサド政権転覆については、このHTSが大きな役割を担って、それを実現した。
その背景には、大統領就任前のトランプがウクライナ停戦に向けて動いたり、ロシアの力が確実に退化していることが、HTSたちのトリガーになったのではないだろうか。
仮に、トランプの影響力でロシアの力が…となると、アフリカ各地でも同様の反体制派を勢いづき、シリアと同じようなことが起きるかもしれない。
また、この「反体制の攻勢」が違う形で、日本のお隣の大国にも及ぶかもしれない…。
以上、陰謀論。
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以下は、冷静な分析…といいたいところだが、陰謀論の続きね。
テロ組織を核とする反政府勢力がシリア政権を倒した。
なので、このあとのほうが混乱を招く、つまり、内乱的な自体に発展するのかもしれない。
このシリア国内で今後起きるであろう混乱を、周りの国がどう関与するか…。注視必至。
まとめ
アサド政権の崩壊は、中東地域のパワーバランスに大きな変化をもたらし、国際社会全体にも波及効果を及ぼしています。
ロシアやイランといった主要国は新たな秩序形成に向けた動きを見せる一方、難民問題やテロリズムの拡大といった課題も山積しています。
また、シリア情勢はエネルギー市場や地域全体の安定に直接影響を与えるため、国際社会の注目を集めています。
アサド政権の崩壊は、それでシリアの安定がもたらされるわけでもなく、これからもシリアの先行きを注視する必要があります。
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