WBC2023で、日本チームが優勝し、彼らの活躍が私たちにとてつもない感動と意味をプレゼントしてくれたことは記憶に新しい。
筆者(以下、「私」と書きます)も、
「究竟に陥ったときこそ、目的を忘れずに」
ということを強く教えてもらいました。
ところで、私は、この記事を書いている前日まで、大谷翔平(敬称略)がWBC決勝戦前、円陣スピーチをしたことを知らなかった。
そして、円陣スピーチが日本国内だけでなく、海外からも大絶賛されていることも…。
私は、「32秒のスピーチ」動画を見て、そしてその言葉を書き起こして、驚愕しました。
大谷翔平の「32秒のスピーチ」は、
人の心と行動を動かす超一級のお手本
そういう構成と内容だったからです。
それは、流れで思うままに喋ったのではなく、スピーチをすることの目的を見据えて、それを最大限に発揮させる組み立てを行っていたのです。
私は、そう推測します。理由は、心理学的な要素が効果的に、おてんこ盛りだからです。
そして、「32秒のスピーチ」は間違いなく、日本選手たちの心と行動を動かしました。
大谷翔平「32秒のスピーチ」があったからこそ、ドラマのような決勝戦が展開されたのです。
□ □ □
この記事では、大谷翔平の「32秒のスピーチ」の奥底に隠された真実というか、その力(パワー)を語り尽くします。
私たちも、その真実を知ることで、大谷翔平の「32秒のスピーチ」のようなことを日常で行うことは、実現可能です。
私は、そう確信しています。
理解していただくために、まず本記事の展開から
本記事を理解していただくために、簡単に、本記事の展開を記してから始めます。
以下の順番で理解していただくことで、私たちも大谷翔平の奇跡のスピーチができます。準備と練習は必要ですが…。
- 「32秒のスピーチ」動画を見ていただく
- 「32秒のスピーチ」書き起こしを読んでいただく
- 「32秒のスピーチ」目的と構造
- 「32秒のスピーチ」の逐次解説
- 「32秒のスピーチ」のまとめ
大谷翔平「32秒のスピーチ」の動画
まずは、「32秒のスピーチ」の動画をご覧ください。
この動画は再生数がものすごいので、あたなたはすでに見ているかもしれません。
その場合でも、次項以降の意味を理解していただく上でも、ぜひ、もう一度、味わってください。
動画は、侍ジャパン公式ツイッターの動画です。
2023 WORLD BASEBALL CLASSIC™
— 野球日本代表 侍ジャパン 公式 (@samuraijapan_pr) March 21, 2023
決勝・アメリカ戦の円陣声出しは #大谷翔平 選手!
▼侍ジャパン試合速報https://t.co/PnCFO1PH8P#侍ジャパン #WorldBaseballClassic pic.twitter.com/VASNb5iBJV
大谷翔平「32秒のスピーチ」の文字起こし
以下は、私が前述の動画を見て書き起こしたもの。「え〜」「あの〜」などの言葉は省きました。
また、構造が明確になるように、細かく改行を入れました。
そして、あとあとの解説で場所を特定するため、各行頭に行番号を入れています。
動画を見て、あなたが感じた感動・感情を思い起こしながら、以下の書き起こしを読んでください。
01 僕から、一個だけ。
02 憧れるのをやめましょう。
03 ファーストにゴールドシュミットがいたりとか、
04 センターを見たらマイク・トラウトがいるし、
05 外野にムーキー・ベッツがいたりとか、
06 野球をやっていれば
07 誰しも聞いたことがあるような選手たちがいると思うんですけど、
08 今日一日だけは、
09 憧れてしまったらね超えられないので、
10 僕らは、
11 今日超えるためには、
12 やっぱりトップになるために来たので、
13 今日一日だけは、
14 彼らへの憧れを捨てて、
15 勝つことだけ考えていきましょう。
16(一拍おいて気合を入れ)
17 さあ、行こう!
侍ジャパン公式ツイッターより
大谷翔平「32秒のスピーチ」の目的と構造
細かい逐次解説は、次項で行います。
この項では、「32秒のスピーチ」に隠された
目的と、それを達成するための構造
について語ります。
「32秒のスピーチ」の目的とそれを達成するための構造
まず、結論から。
「32秒のスピーチ」の目的は、決勝戦で勝つこと。
その目的を達成するための構造は、チーム全員の心と行動を動かすこと。
□ □ □
大谷翔平は考えました(おそらく…)。
日本人選手なら誰しもMBLに「憧れ」、そして、その選手たちに「憧れ」る。
もしかしたら、夢にまで見たかもしれない「憧れ」の選手が今、目の前にいる。
しかも、相手チーム全員が、そういう「憧れ」の選手たち。
そして、そういう「憧れ」が無意識に萎縮した気持ちと行動を起こさせてしまうことは、大谷翔平自信が、よく分かっていた。
大谷翔平は、決勝戦後、米国スポーツ専門局「FOXスポーツ」のインタビューに対し、「32秒のスピーチ」の真意を次のように説明しています。
野球をやっている人なら誰もが知ってる選手が1番から9番までいる。もちろんベンチの選手もそう。何も考えないと『あ、マイク・トラウトだ』とリスペクトの気持ちで受け身になってしまうので、そこだけ、負けないんだという気持ちを持って行きたいなと思っていた。
引用元:THE ANSWER
「32秒のスピーチ」の構造解析
「32秒のスピーチ」の構造は、大きく2つで構成されています。そして、細かくは、4つに分かれています。
まず、大きな2つの構成はこれです。
- 聞き手(チームメイト)の心と行動を変える前提づくり
- 聞き手の「やる気スイッチ」づくり
そして、1番目は3つで構成されています。つまり、全体で4つの構成になっています。
- (大きな1番目)結論
- (大きな1番目)結論の具体事例
- (大きな1番目)結論の理由説明
- (大きな2番目)結論
さらに、凄いことは、これらの4つの構造には、心理学的な効果が匠に組み入れられているのです。
前述した4つの構造に、心理学的な効果を加筆してみましょう。
- (大きな1番目)結論
- 「端的で意外性」な結論を提示する
- (大きな1番目)結論の具体事例
- 「イエスセット」で展開する
- (大きな1番目)結論の理由説明
- 「PREP法」構造のなかでの展開
- (大きな2番目)結論
- 「アンカリング」でやる気スイッチづくり
「」内にある言葉は、心理学的(心理学とは言いません、あくまでも心理学的です)なものですが、細かい解説は長くなるので書きません。
どういうものであるかという概要は、次項の逐次解説の中で行います。
大谷翔平が雄叫びをあげた理由!?
ところで、MBLで大活躍している大谷翔平ですが、米国の人たちが彼をどう捉えているかというと、それは、
寡黙でストイックな選手
だとのこと。
だからこそ、WBC2023のなかで、大谷翔平が塁上で雄叫びをあげたり、ダグアウト内でチームメイトを先導するように大声を挙げていたことに、米国の人たちは驚いたようです。
大谷翔平が感情を爆発させているとの驚き。
私はWBC2023の日本チームの試合すべてを見たわけではありませんが、決勝戦は見ました。
そして、大谷翔平は、大声を上げることでチームを引っ張っているのかなと感じていたのです。
その本当の意味が分かったのが、「32秒のスピーチ」です。
前述の「4つの構成」に記した「アンカリング」ですが、それは、「やる気スイッチをつくる」ための行為です。
「アンカリング」だけ、少し説明しますね。
この説明には、よく、パブロフの犬が引用されます。
「AをするとBという状態が起こる」という関連性のあるトリガー(きっかけ、あるいはスイッチ)をつくるというもの。
おそらく皆さんご存知のことと思いますので、ここでは細かい定義的なことは、書きません。
大谷翔平は「32秒のスピーチ」で、チーム全員の気持ちが沈んだときのために、「やる気スイッチ」を作ったのです。
そのスイッチづくりが、スピーチラストの声掛け「さあ、行こう!」(文字起こし 16・17行目)。
もちろん、16・17行目だけでなく、1〜15行目までがあって初めてできることなのです。
あの「さあ、行こう!」(文字起こし 17行目)に対し、チーム全員が「おぅ!」というような雄叫びで応じました。
これが「やる気スイッチづくり」です。
もう少し具体的に書くと、
「大声をあげることで、または、聴くことで、今日は絶対に勝つぞという決意した状態を呼び起こせるようになる」
のです。
試合中は、劣勢でチームメンバーの気持ちが弱くなるときがありました。
そういうとき、大谷翔平が先導して大きな声を出していました。
それに呼応して、チームメンバーも声出しをする。あるいは、出さないまでも大谷翔平の大声を聴くことで、
「今日は絶対に勝つぞ」
という思い・感情が、すぐに蘇るのです。
大谷翔平「32秒のスピーチ」の逐次解説
それでは、前掲した「32秒のスピーチ」全文に従って、逐次開設です。これも前掲した4つの構成毎に説明していきます。
結論〜「端的で意外性」な結論を提示する
該当部分は、全文の 1行目・2行目です。
01 僕から、一個だけ。
02 憧れるのをやめましょう。
侍ジャパン公式ツイッターより
話をするとき、大切なことの1つ目は、聞き手の「聴きたい」という気持ちを掴みとることです。
細かい何故はは処理ますが、そのためには、「端的(あるいは簡潔)で意外性」のある口火を切ることです。そして、それが結論になっていれば、いうことない。
大谷翔平の「32秒のスピーチ」は、まさにこれに合致しています。
つまり、普通の挨拶など端折って、いきなりスピーチの結論を、端的かつ意外性のあるもので話し始めたのです。
聞き手は、これから大谷翔平がどんな話をするのか興味津々ではありますが、そんな聞き手の想像を超えた言葉、それが
「僕から、一個だけ。憧れるのをやめましょう。」
です。
この口火(かつ、結論)で、聞き手は驚き、次を聴きたいと強く思うようになります。
口火の「いちフレーズ」で聞き手を引きつける力、大谷翔平は凄い人です。
結論の具体事例〜「イエスセット」で展開する
該当部分は、全文の 3行目から 7行目です。
03 ファーストにゴールドシュミットがいたりとか、
04 センターを見たらマイク・トラウトがいるし、
05 外野にムーキー・ベッツがいたりとか、
06 野球をやっていれば
07 誰しも聞いたことがあるような選手たちがいると思うんですけど、
侍ジャパン公式ツイッターより
ここで言う「イエスセット」とは、話し手の内容ひとつひとつに、聞き手が「Yes」と無意識に思わせるような展開を重ねることで、話し手が、最終的に目論んでいることも、聞き手が「Yes」と思いやすくする心理的な交渉術です。
細かいことは、ここでも省きますが、前述の3行目から7行目に対して、聞き手の無意識の声の典型例を書いてみますね。
03 ファーストにゴールドシュミットがいたりとか、
聞き手>うん、そうだね(Yes)04 センターを見たらマイク・トラウトがいるし、
聞き手>うん、トラウトだもんね(Yes)05 外野にムーキー・ベッツがいたりとか、
聞き手>うん、そうだね、単年契約 2700万ドルだもの!(Yes)06 野球をやっていれば
07 誰しも聞いたことがあるような選手たちがいると思うんですけど、
侍ジャパン公式ツイッターより(03、04、05、06、07のみ)
聞き手>うん、そうだね、憧れの選手ばっかり(Yes)
あれ? でも、どうして憧れるのをやめなくちゃいけないんだろう?
実際の聞き手の心の声(無意識の声)は、まちまちかもしれないけど、大谷翔平の言葉に対して、いちいち「それは違うな」と感じた聞き手は、あの場にはいなかったのではないでしょうか。
つまり、それぞれの微妙な違いはあったにせよ、なんらかの「Yes」をたくさん重ねたのです。
それは、その後に展開される大谷翔平の言葉を心理的に受け取りやすい状態に導きます。
加えて、7行目の「あれ? でも、どうして憧れるのをやめなくちゃいけないんだろう?」という疑問です。
これも人それぞれ微妙に違うかもしれませんが、無意識に感じる「何故」です。
そして、その「何故」が、次を聴きたいという動機づけにつながっているのです。
結論の理由説明〜「PREP法」構造のなかでの展開
該当部分は、全文の 8行目から 15行目です。
08 今日一日だけは、
09 憧れてしまったらね超えられないので、
10 僕らは、
11 今日超えるためには、
12 やっぱりトップになるために来たので、
13 今日一日だけは、
14 彼らへの憧れを捨てて、
15 勝つことだけ考えていきましょう。
侍ジャパン公式ツイッターより
「PREP法」(プレップ法と読みます)とは、「結論(Point)→理由(Reason)→具体例(Example)→結論(Point)」という流れで、ものごとを伝える手法です。
文章や口頭で、話を伝えるときに活用すると、読み手・聞き手に、分かりやすく、かつ、簡潔に伝えることができるというメリットがある方法です。
「PREP法」が何故、効果的なのかということについては、長くなるので省略します。
今回の大谷翔平の「32秒のスピーチ」は、形式的には「結論(Point)→具体例(Example)→理由(Reason)→結論(Point)」となっており、つまり、「PREP」ではなく「PERP」ですが、その効果性は、およそ違いはありません。いや、それ以上に…
とくに、「33秒のスピーチ」では、具体例の最後に「次を聴きたい」という聞き手の動機づけを刺激しているので、通常の「PREP」の順番以上に、理由の納得度は増していると考えます。
□ □ □
この3つ目の項目「結論の理由説明」では、本来の目的、つまり「勝つために、いまここに居るのだ」ということを強く意識させます。
そして、「憧れ」は勝つための阻害になるので、一日だけは「憧れ」を捨てて、勝つことに集中しようという訳です。
ここまでのスピーチを聴いて、聞き手であるチームメイトは、みんな「よし勝つぞ」と心の中で誓ったことでしょう。
次の、4番目の項目、結論〜アンカリングでやる気スイッチづくりでは、聞き手が、この「よし勝つぞ!」という思いに達することが重要なのです。
結論〜「アンカリング」で、やる気スイッチづくり
該当部分は、全文の 16行目から 17行目です。
16(一拍おいて気合を入れ)
17 さあ、行こう!
侍ジャパン公式ツイッターより
4つの構成の1番目「結論」(1行・2行目)と、4番目の「結論」(16行・17行目)は違うじゃないか・・・という声が聞こえてきそうです。
実質的には同じなのです。肝は、16行目の「一拍置く」です。
このなかで聞き手は、一番目が大谷翔平が伝えたい「結論」であり、四番目も大谷翔平が伝えたい同じ「結論」なんだと感じているのです。
一番目の「結論」は「憧れ」をやめましょうということ。
そして、具体事例と理由を聴いた聞き手は、四番目の「結論」は「憧れやめた上で、今日、この試合に勝つ」ということで、実質イコールになります。
だからこそ、次に簡単に開設を加える「やる気スイッチづくり」が活きてくいるのです。
□ □ □
さて、アンカリングについては、前項で簡単に触れました。
(A)「勝つぞ」という強い思い・感情と、(B)特定のトリガー(やる気スイッチ)を結びつけるのです。
これが上手く作られるためには(A)において、強い感情を起こすことが必要で、(B)においては感覚的なスイッチが必要です。
大谷翔平の「32秒のスピーチ」では、(A)は、「結論の理由説明」までで聞き手のなかに生じた「今日は憧れをやめて、この試合に勝つぞ!」という強い思いです。
そして、(B)は、気合を入れること(大きな声を出すこと)です。
この「やる気スイッチ」ができると、前述したように、試合の展開で不利になったとき・窮地に陥ったときに、大きな声だしをすることで(または、それを見聞きすることで)、「今日は憧れをやめて、この試合に勝つぞ!」という思いがチームメンバーのなかに再燃するのです。
えっ!? そんなにうまくいかないでしょ・・・。
実は、「アンカリング」は、かなり効くのです。
とくに、今回は 16行目の「一拍置く」が効果的なので、試合のラストまで、このやる気スイッチは機能したハズです。
まとめ
この記事では、WBC2023の決勝戦前に、大谷翔平が行った「32秒のスピーチ」が、すこぶる奇跡的とも言うべき、素晴らしい内容を含んでいたという考察をしました。
ここで掲げた、「イエスセット」「PREP法」「アンカリング」などを活用することで、実は、誰でも大谷翔平のような効果的なスピーチが可能です。
もちろん、練習や事前準備は必要です。
そして、その効果は、聞き手に納得感を持たせる以上に「やる気スイッチ」をつくることで、聞き手の思いや行動を変えることができるのです。
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本記事では、専門的で冗長的になりやすい言葉や概念は、かなり端折りました。
機会がありましたら、当ブログで、「イエスセット」「PREP法」「アンカリング」などの解説も書きたいと考えています。
ここまで、お読みいただき、ありがとうございました。