ロシアの大手国営銀行「VTB銀行」が、国民の預金を強制的に株式転換するという衝撃的なニュースが飛び込んできました。これが事実ならば「各国からの経済制裁やウクライナ戦争によるロシア経済の窮状現状を象徴するものだ」と、ロシア国内だけでなく、世界から注目されています。
この記事では、本事案の背景、すなわち、VTB銀行はロシア経済においてどのような役割を果たしているのか、なぜこのような極端な措置が必要とされているのか。また、その実現可能性はどの程度なのか。そして、この政策が他国にどのような影響を及ぼすのかということについてまとめました。
- VTB銀行のロシアにおける位置づけとその重要性
- 預金が株式に強制転換される背景とその実現可能性
- 政府の関与や他国への影響
VTB銀行のロシアにおける位置づけと重要性
まずは、エックスから気になるポストを1つ。
#アントン・ヘラシチェンコ@Gerashchenko_en#ロシア のメディアは、#ロシア最大の銀行のひとつである 国営の #VTB が、#間もなく破綻 する可能性があると報じています。
— Hiro's gallery (@HiroGallery) December 5, 2024
VTBはロシア中央銀行から2兆ルーブル(約190億ドル)の融資を受けています。… https://t.co/n2i9cJAw25
_/_/_/
VTB銀行は、ロシア国内で2番目に大きい国営銀行であり、政府の経済政策の中核を担っています。
VTB銀行とは?
VTB銀行は、モスクワに本拠地があるロシアのメガバンク。外国貿易銀行は発祥で、ペレストロイカ混乱を経て、1990年に設立。世界19カ国に展開する多国籍企業です。2001年末に国有化されました。
売上高、利益、総資産などはWikipediaなどを見ると、2010年の分しかないので、直近の財務内容などは不明ですが、現在でもロシアとしては重要な銀行であることは間違いありません。
同銀行は、これまで主に国際貿易や大型プロジェクトの資金課措を支える役割を果たしてきました。
しかし、ウクライナ侵攻以降、アメリカやEU諸国の厳しい制裁を受け、国際金融市場へのアクセスを制限されています。
VTB銀行の現状
現状では、前述のように直近の財務状況すらわからないのですが、ロイターに直近期の決算状況の記事がありましたので引用します。
記事はこれです。
ポイントを抜粋しようと思いましたが、短いので、ほぼほぼ全文引用します。
[モスクワ 20日 ロイター] – ロシア大手国営銀行VTB(VTBR.MM), opens new tabが20日発表した2023年の純利益は4322億ルーブル(約46億8000万ドル)と、過去最高に達した。西側諸国による対ロ制裁措置に伴って6675億ルーブルの赤字を計上した前年から業績が回復した。
ピヤノフ最高財務責任者(CFO)は記者団に対し、24年の純利益は4350億ルーブルと、再び過去最高益を見込んでいると説明した。
ロシア中央銀行が政策金利を16%に引き上げたにもかかわらず、住宅ローンや消費者・企業向け融資が急増したため、ロシアの銀行は昨年、過去最高となる計3兆3000億ルーブルの純利益を計上した。
ピヤノフ氏によると、マクロ経済環境が悪化する中、今年のVTBの業績は西側諸国によって凍結された資産の解除に伴う1000億ルーブル計上など「一時的な要因」に依存することになる見通し。
一時要因を除くと、今年の純利益は2750億ルーブルにとどまる見通しという。銀行への逆風の一つが、政策金利が二桁に達する中で融資ポートフォリオの伸びが鈍化することだ。ピヤノフ氏は「銀行セクターは融資のハードランディング(急失速)に直面しそうだ」と警告した。
引用元:ロイター
非常にわかりにくい内容ですが、「莫大な赤字を計上した2022年と比較すると、2023年は過去最高の純利益を達成した。この傾向は2024年も続く。ただし、この傾向は【一時的な要因】によるもの、今後は余談を許さない」という感じですね。
_/_/_/
また、ウクライナのジャーナリストでYouTuberのBOGDANさんによると、VTB銀行の現状は、かなり厳しそうです。動画はこれです。筆者 taoが興味を持って、VTB銀行のことを調べ始めたのも、このBOGDANさんの動画がきっかけです。
BOGDANさんの情報から、VTB銀行の現状に関することに限って、ザクッとまとめるとこういうことになります。
- VTB銀行が、ロシア国民を窮地に陥らせる政策を行うことを発表した
- それは、VTB銀行が国民預金を銀行株に強制的に変更するという政策(計画)
BOGDANさんの冒頭の話を文字起こししますね。
以前もお話したんですけど、ロシア経済が非常に大きなピンチを迎えていて、最終的にはロシア国民が持つ預金をすべて戦争国債に切り替えることにして、実質、国民がその預金を引き出せなくする。そして、その戦争国際は20年・30年後に国民に戻って来るという内容になっています。プーチンが他界してから残った人達が借金(国債)を返していくという流れが起きる可能性が高いということをお話させていただきました。今回、VTB銀行が発表した内容は、それよりもさらにひどい内容になっています。これをロシア政府が発表した。
引用元:ロシア経済がさらなる崩壊へ!ロシア最大級の銀行『VTB銀行』が国民の預金を強制的に株券へ転換する衝撃政策を発表!
さらに、詳細はBOGDANさんの前述の動画を見ていただきたいのですが、彼がVTB銀行についてまとめたものの一部をリスト化します。あくまでも、BOGDANさん情報です。
引用元:ロシア経済がさらなる崩壊へ!ロシア最大級の銀行『VTB銀行』が国民の預金を強制的に株券へ転換する衝撃政策を発表!
- 汚職で大量赤字のVTB銀行
- VTB銀行は、工作用賄賂支払い用のロシア政府のための公式ツールになってしまっている
- 全世界にロシアが配備した工作員や買収した政治家、組織、専門家などにお金を支払うための銀行、オリンピック委員会や他の国際組織に資金提供する銀行としても有名
- 公式には銀行だが、非公式にはマフィアの金庫のような立ち位置
- VTB銀行の悲劇
- 銀行の担当者に賄賂を支払えば、融資を獲得できるため、多くの未回収融資案件が発生
- 担当者へのキックバックが発生、銀行は未回収で赤字垂れ流し構造に
- これらの未回収等の金額がすでに200億ドル(日本円で約3兆円)を超え、なんとかこれを工面する必要が出てきた
- VTB銀行の打開策案
- 預金している国民の残高を銀行の株式に強制転換する
- 転換された株は、数年間の販売禁止が盛り込まれる内容とのこと
- 国民だけでなく企業も
- これはまだ実施されていないが、実施される報告ということですでにメディアが報じている
- 最終的に株価暴落をすれば、預金返却の必要性が皆無となる
- 国債と違って、この手法は、ロシア政府にとって痛くも痒くもない?
上の引用のなかにある「未回収等の金額がすでに200億ドル(日本円で約3兆円)を超え」とある金額が、冒頭のほうで転載したエックスポストの「VTBはロシア中央銀行から2兆ルーブル(約190億ドル)の融資を受けています。 しかし、この融資をすぐに返済できる兆しは見られません。」の金額がほぼ一致です。潜伏して(隠し立てして?)帳尻合わせしたけど、結局、お金返せません!だから、預金をもらってしまおう…という奇策なのでしょうか。
_/_/_/
ところで、このVTB銀行の株価が気になったので、Feloで調べてみました。
【VTB銀行の株価トレンド】
VTB銀行(VTB Bank PJSC、ティッカー: VTBR)の株価トレンドについて、以下に最新の情報を基に解説します。
- 現在の株価状況
- 最新株価: 2024年12月6日時点で、VTB銀行の株価は67.52ルーブルで取引されています。
- 短期的な変動: 過去24時間で0.85%の上昇を記録しており、直近の取引セッションでは安定した動きを見せています。
- 過去のパフォーマンス
- 週間変動: 直近1週間では6.58%の上昇を記録しており、短期的には回復基調にあります。
- 月間変動: 1ヶ月間では6.43%の下落を示しており、依然として中期的な不安定さが見られます。
- 年間変動: 過去1年間では34.83%の下落を記録しており、長期的には依然として厳しい状況が続いています。
- 株価の歴史的な高値と安値
- 史上最高値: 2007年5月28日に873.45ルーブルを記録。
- 史上最安値: 2022年10月10日に69.40ルーブルを記録。
- 市場環境と影響要因
- VTB銀行の株価トレンドは、以下の要因に大きく影響を受けています。
- 経済制裁の影響
ウクライナ侵攻後、西側諸国からの経済制裁により、VTB銀行はSWIFTから排除され、国際的な金融取引が制限されています。この制裁は株価の長期的な下落に寄与しています。 - ロシア国内経済の状況
ロシア経済全体が制裁やエネルギー価格の変動に影響を受けており、VTB銀行の業績にも影響を与えています。特に、国内市場での資本流動性の低下が株価に反映されています。
- 経済制裁の影響
- VTB銀行の株価トレンドは、以下の要因に大きく影響を受けています。
- 業績
- 直近の四半期では、VTB銀行の純利益が92.90億ルーブルで、前四半期の150.10億ルーブルから38.11%減少しています。この業績悪化が株価の下落圧力となっています。
- 今後の見通し
- 短期的な回復の可能性: 直近の株価上昇は、ロシア国内での金融政策やエネルギー価格の安定化が影響している可能性があります。
- 長期的なリスク: 制裁の継続やロシア経済の不透明感が、株価の回復を制限する要因となる可能性があります。
- VTB銀行の株価は、短期的には回復の兆しを見せていますが、長期的には依然として厳しい状況が続いています。投資家は、ロシア国内外の経済動向や制裁の影響を注視する必要があります。
_/_/_/
いろいろ情報をあげてきましたが、このような状況下での経営悪化が、今回の驚愕の政策を引き起こす要因となりました。
一方、VTB銀行はロシア経済において不可欠な存在であるわけで潰すわけにもいかない。つまり、VTB銀行の経営問題が金融システム全体の不安定化を招くリスクも抱えているわけです。
同銀行の動向は、当然、国内外の金融市場に大きな影響を及ぼします。
預金を株式転換する背景とその可能性
VTB銀行が預金を強制的に株式転換する背景には、経済制裁による資本不足と経営危機がありますが[5]、前述したBOGDANさんが指摘していることを見る限り、銀行にすれば、また、政府にすれば、やむにやまれず「やる!」ということなのでしょう。
VTB銀行の制裁はこれからも続き、ドル立て取引が制限されることで、さらに外貨資金の調達が困難になっていきます。VTB銀行は、圧倒的にお金が少ない、足りないということです。政府もVTBを救うお金が無い。無い無いづくしですね。
この政策は、格好良く言うと、銀行の自己資本比率を引き上げることを目的としていますが、なんのことはない、預金者の資産を奪うことにほかなりません。
戦時下ならいざしらず、こんなことがまかり通るのか!!!と言いたいところですが、ロシアはまさに戦時下です。
これが実行された場合、国民はどういう行動を起こすのでしょうか。金融システムについての国民や企業の信頼は空れることは間違いありません。
ロシア政府の関与と政策の実現可能性
VTB銀行はロシア政府が92%以上を保有する国営銀行であり、政府の意向が政策に直接影響を与えています。
これまでも、政府からの資本注入や制裁対策が実施されてきました。
今回の政策も、政府が銀行システムの維持を目的に推進していると見られます。
実現可能性については、過去の類似措置や現在のロシアの法的枠組を考えると高いのかもしれません。
しかし、社会的な反発や法的課題が障壁となる可能性もあります。
他国への影響
この政策の影響はロシア国内にとどまりません。
ロシアは御存知の通り資源大国で、各国がロシアから資源を輸入しています。その影響です。
具体的には、アメリカがロシア制裁でガスプロム銀行の国際取引を禁止しました。結果、各国はガス代金支払が不可能になってきています。つまり、ロシアからのエネルギー資源輸入が途絶える…。
たとえば、トルコ制裁解除をアメリカに要請するも拒否されるという経緯もありました。
そこで、プーチンは苦肉の策として、他国に対して「中継企業などを介してガス料金の支払いを緊急許可することを発表しています。
実は、日本もロシアからのエネルギー供給に依存しており、供給不安や価格上昇が日本経済に直接的な影響を与える可能性があります。
また、ロシアの金融不安が新興市場に注釈すれば、世界的な金融市場にも悪影響を及ぼすリスクがあります。
まとめ
ロシアのVTB銀行が発表した「預金の株式転換」政策は、経済制裁や経営危機が背景にあるものの、驚愕な措置です。
ロシア政府の強い関与のもとで進められていると推測されるこの政策は、国内外で大きな影響を及ぼす可能性を秘めています。
国内では、預金者の資産が事実上押さえられることとなり、金融システムへの信頼性は崩壊するかもしれません。それが及ぼす経済等、国内への影響は計り知れません。
一方、他国ではエネルギー供給の安定性や金融市場の動揚といった問題が懸念されます。
しばらく、このVTB銀行による「預金の株式転換」がどうなるのかについて、注視していきましょう。
コメント